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続・中沢佑二という保証。

 南アフリカ大会が始まって、カメルーンに勝って以後、ネット上では「岡田監督に謝ろう」という言説が数多く飛び交っていたようだが、私自身が今、謝りたいと感じているのは、中沢佑二に対してだ。

 中沢については2004年にこんな文章を書いたことがある。ちょうど岡田監督の下でマリノスが2連覇していた頃だ。Jリーグにおける彼の絶頂期といってもよいだろう。あれからもう6年も経つのだな。
 以後も、彼の人格やプロフェッショナリズムに対する敬意を失ったことはない。だが、近年、代表やJリーグにおける彼のパフォーマンスを見ていて、全盛期の能力を失いつつあるのではないかという懸念を拭うことができなかった。国際試合では、一対一の攻防で振り切られる場面をしばしば目にした。
 もちろん、失点の矢面に立つのが最終ラインの選手だからといって、その失点に関する責めのすべてを、その選手が負うべきでないことは判っている。ピッチのもっと前の方で、別の選手によってなされるべき作業がなされないまま、最終ラインの選手が不利な状況に直面し、それが失点につながることは多い。
 だが、そんなケースにおいてさえ、相手を跳ね返して日本のゴールを守ってくれる、と私は彼を信奉していた。高い信頼、というよりも、ほとんど言いがかりに近い期待である。そして、もうその期待が満たされることは二度とないのだろうな、と近年はなかば諦めていた。

 だから、南アフリカにおける彼の活躍には目を見張った。
 グループリーグで戦う3チームのうち2チームがオランダ、デンマークという「巨人の惑星」であるにもかかわらず、高さで崩された失点は皆無。長身の相手選手たちに向けたハイボールも、読みのよいヘディングで、ほぼ競り負けることはなかった。危険な場面ではシュートコースに身体を投げ出した。何度でも、どこまでも。
 190センチ近い長身にして、あれほど出足よく機敏に、そして献身的に動けるとは。この大会にむけて、彼がどれほどの対策を積み、細心の注意を払ってコンディションを整えてきたのか。大会に入ってからも、どれほどよい状態で試合に臨んでいたのか。そういうことが、何の知識もない人間にも伝わるほど、試合の中で余すところなく表現されていた。

 大会を通じてまったく集中を切らすことなく、不安定な場面のなかった闘莉王とともに、この4試合は、中澤の生涯のベストパフォーマンスになるのではないか。それほどの見事な戦いだった。
 4試合で2失点という堅い守備は、もちろん組織で守った成果だし、GK川島のファインセーブも数え切れない。だが、中澤があの位置であれほどの強さを発揮したことが、前後の選手たちの支えになったことは想像に難くない。
 中沢佑二は、やっぱり偉大な保証だった。疑ってごめんなさい。そして、ありがとう。あなたは日本が世界に誇れるセンターバックだ。
 
 
 南アフリカ大会の4試合を通じて痛感したことのひとつは、「やはりゴールに近い位置の選手が決定的なのだ」ということだ。
 ゴールから遠い、つまりピッチの中央に近い位置でプレーする選手たちに日本の強みがある、というのは90年代か、もっと前から続く日本サッカーの特徴だ。もちろん今大会でも、その位置の選手たちはよく闘った(もちろん、誰もがよく闘ったから好成績を残せたわけだが)。
 だが、2勝1分1敗、という好結果をもたらした直接的な要因は、本田の2ゴール1アシストであり、4試合で2失点という守備の堅さだ。点の取れる選手がいれば勝機は生まれるし、ゴール前に高くて俊敏で強いディフェンダーが2人いれば、どんな相手ともそこそこいい試合はできる。

 大会後のメディアやネットの論調を眺めていると、登録FWが先発出場できず、MFの本田がワントップを務めて成果を挙げた、という結果から、FWの養成が急務、とする主張はよく目にする。
 一方、中澤の後継者をどうするのか、という議論は、さして活発ではないように感じる。
 が、きわめて単純な言い方をすれば、高くて俊敏で屈強なセンターバックが中澤ひとりしかいなかったドイツ大会は1分2敗で、中澤と闘莉王の2枚揃った今大会は2勝1分1敗。ほかにもさまざまな要因があることはわかっているが、両大会におけるセンターバックの違いと結果との間に、因果関係がないとは思えない。

 4年後のブラジル大会を考えると、35歳になる中澤が今回と同等のパフォーマンスをすることは困難だろうし、闘莉王も決して若くはない(現役引退を口走っているという報道もあるが、さすがにそれはどうだろう)。そして、今大会で岡田監督が23人に加えた岩政もすでに28歳だ。
 4年後、8年後にこのポジションの主力を担えそうな若手を岡田監督は帯同しなかった。サポートメンバーのうち唯一のDF酒井高徳もサイドバックや中盤の選手で、センターバックではない(身長も176センチと高くはない)。
 今回のメンバーを見渡すと、岡崎、森本のいるFW、本田、長谷部、今野がいる(バックアップ兼サポートの香川もいる)MF、長友、内田の両SB、川島が大本命となったGKと、4年後につながる顔触れがいる他のポジションに比べ、センターバックだけがブラジルへの展望を欠いている。岩政を含めた誰が出場するにせよ、センターバックだけはワールドカップ初出場の選手が2人(ま、1人か3人かもしれないが)並ぶことになる可能性が強い。

 北京五輪代表には優秀なセンターバックが何人かいたし、オシム時代の日本代表に招集された選手もいる(残念ながら私には個人名を挙げて推挙するほどの見識がない)。まずはそのあたりが候補になるだろう。
 次の日本代表監督が誰になるにせよ、最初に整備しなければならないのは、このポジションだと思う。前の方の選手は、むしろ今は海外に出て、個としての力に磨きをかけてほしい。代表がチームとしてまとまっていくのは、しばらく先でよい。若い両サイドバックやGK川島も海外移籍が決まったり、オファーが集まっているというのは喜ばしいことだ。

 だが、センターバックには、代表が国際大会でめざましい成果を挙げなければ、海外に出るチャンスも生まれてこない。まずはJリーグと代表監督(五輪世代の監督も)が連携し、優れた素材によい経験を積ませるようにしてもらいたい。*
 もちろん、その過程では、中沢と闘莉王の2人にも、これまでと、そして今回の経験を、続く世代に伝えてほしい。若手の前に立ち塞がって競争を強いる、という面も含めて。


*
次回のアジアカップはカタールで2011年1月に行われる。欧州ではこの期間にリーグ戦が行われている国が多い。その意味でも、この大会は欧州組の招集は控え目にして、Jリーグに在籍する若手を中心に臨むのがよさそうだ。ま、センターバックに欧州組はいない(であろう)から、本エントリの趣旨とは直接は関係ないことになるが。

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コメント

先に書かれてしまいました(笑)。
ただし、私の場合は、先見の明があったでしょ、と言う自慢話ですが。
http://hsyf610muto.seesaa.net/article/145725590.html

カメルーン戦の後半、闘莉王がハーフウェイライン過ぎて、ボールを奪われ、敵の単独ドリブルを、見事な読みで(少々不格好に)防いだ時に、今大会の中澤の充実を見ました.。
長谷部に腕章を託し、自らのプレイに専念したのもよかったのでしょう。

パラグアイ戦、「中澤が最後のPKを決めて歓喜」と、かなり具体的なイメージができていたのですが...

投稿: 武藤 | 2010/07/03 20:57

追伸、余談です。

吉田マヤが、オランダでプレイしています。

投稿: 武藤 | 2010/07/03 21:11

>武藤さん
>ただし、私の場合は、先見の明があったでしょ、と言う自慢話ですが。

ここでお書きになっている最近の中沢のプレーの描写は、まさに南アフリカでの彼そのものでしたね。いかに私に見る目がないか(というよりサッカーそのものをあまり見られずにいるわけですが)を露呈したようなものでお恥ずかしい。
武藤さんの筆による中沢讃歌、ぜひ読ませてください。

吉田麻也についても失念しておりました。巨人の惑星でのプレーは、必ずや貴重な成長につながることでしょう。

投稿: 念仏の鉄 | 2010/07/04 00:17

中沢から長谷部にキャプテンを直前に代えたことが日本の躍進のひとつだと思っています。
岡田監督の大英断です。
キャプテンを離れプレーに集中できていた結果ではないでしょうか。彼にはキャプテンがいなくなったときにキャプテンを勤めるキャプテン代行ぐらいが丁度良いのかもしれません。
中沢への謝罪はわかりましたが岡田監督にはとりあえず頭を下げただけで終わりですか?
監督を贔屓の方に代えれば予選三敗でも支持する、なんて記述ありましたが。

投稿: バイアウト | 2010/07/15 17:43

>バイアウトさん

そうですか。

投稿: 念仏の鉄 | 2010/07/16 00:03

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