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2010年8月

原博実技術委員長を支持する。協会には注文がある。

 次のサッカー日本代表監督選びに、いささか時間がかかっている。
 約1か月間、南米や欧州で交渉にあたっていた原博実・日本サッカー協会技術委員長が帰国し、昨日(24日)、経過報告の記者会見を行った。スポナビに掲載された一問一答を読むと、彼らしい率直で誠実な会見であったように思える。

 会見で説明されたここまでの経過をまとめると、次のようになる。
 原がワールドカップを決勝まで視察し、日本代表の分析と課題に関するリポートを担当の大仁副会長に提出して、新しい監督選びについての方針を決定した。そこで固まった方針に基づいて、具体的にリストアップされた候補者たちとの交渉に入り、複数の候補と話をもってきた。交渉した相手のうち、ペジェグリーニとバルベルデには残念ながら断られた。現在も最終的な条件を提示して返事を待っている相手がいる。

 まったくもって筋の通ったやり方である、と私には思える。日本サッカー協会が、これほどきちんとした手順で代表監督選びを進めたことは、これまでなかった。ハンス・オフト、ファルカン、加茂周、岡田武史、フィリップ・トルシエ、ジーコ、イビツァ・オシム、岡田武史と、ワールドカップ出場が現実味を帯びるようになった時期からの監督の就任経過を思い起こしても、ここまできちんと経過が説明され、それが納得のいくものであった、という例はない。

 にもかかわらず会見ではこんな質問が出たようだ。

<7月22日から1カ月以上もかかって決められなかった。今後、われわれ(メディア)に「決められる」と提示できるものはあるのか?>
<交渉中の細部の詰めがこちらにはまったく伝わってこない。大仁副会長も把握していないところがあるし、小倉会長は大仁副会長に任せているし、何がどうなっているのかさっぱり分からない>
<1カ月以上かけて原さんが話をまとめることができなかった。その人が「ペジェグリーニはダメでしたね」と笑っているが、決められなかった人がこの先、決められるのかと聞きたい>
<万一、今回の交渉が決まらずに9月の代表戦で原さんが代行監督となった場合、責任をとって技術委員長を辞任する覚悟はあるか?>

 これらの質問は、質問の形をしているが実はそうではない。質問者が回答者に期待しているのは、生産的な回答ではなく、謝罪(あるいは屈服)だからだ。自分の立場で日本のサッカーに何らかの貢献をしようという意思は、寸分も読み取れない。たぶん、公の場で壇上の人間に頭を下げさせたいという歪んだ欲望に溺れてしまった人間が、会見場に紛れ込んでいたのだろう。

 それとも彼らは、ワールドカップでの日本代表の戦いが総括されることもなく、次の監督選びの方針が明らかにされることもなく、もちろん交渉経過が報告されることもなく、ある日突然、次の監督の名が発表されてきた(あるいは「言っちゃったね」という形で知らされた)、これまでの協会のやり方の方が好ましいとでも思っているのだろうか。

 いみじくも原委員長が会見で話した通り、<今はあえて世界に出ていって、世界的な人に交渉している>のであり、<あえてそこで勝負をして>いる。
 まさにこれはチャレンジであり、戦いなのだ。かつて協会は、(確かオフトの次あたりに)テレ・サンターナにオファーを出して、求められた金額の大きさにすごすごと引き下がったこともあったようだが、今やっている交渉は、そんな次元ではなく、もっと現実的なものだろう。
 
 協会がこれまでの監督選びとはやり方を変えた。そのこと自体は支持する。独裁的と評判の悪かった前会長も、この点は評価に値する。
 原委員長には、ぜひ、よい結果を出して欲しいと願っている。

 ただし、協会に対しては、これでいいんですか、という懸念もある。
 一連の経過の中で、ワールドカップでの日本代表の戦いぶりを分析し、課題を挙げ、新しい監督に求める条件を洗い出す、という作業を原技術委員長が担うのは、職掌として適切なことだと思う。選手としても指導者としても一定の実績をもった人物が果たすべき役割だろう。

 しかし、その作業から浮かび上がった候補者を日本に連れてくる、という交渉事を担うのに最も相応しいのが原博実か、といえば疑問だ。彼には監督の経験はあっても、監督を選んだ経験はない。それはクラブでいえばゼネラルマネジャーの仕事だ。
 そして、原にその任を全うするだけの人的なサポートが与えられているのかどうかは、会見や報道から伺い知ることはできない(さすがに何人かのスタッフは同行しているようだが)。

 協会はかつて平田竹男という人材を経産省から専務理事に迎え、ジェネラルセクレタリーという英語名まで冠して(皆さんご存知の人物の趣味だ)、国際業務にあたらせた。ジーコ時代に欧州や南米の強豪との対戦が実現したことは、ジーコの顔のおかげだと評価する人も多かったようだが、平田の交渉力に与った面も大きかったはずだ(その仕事の一部は著書「サッカーという名の戦争」に記されている)。彼は2006年に協会を去ったが、今も協会にいて代表監督候補との交渉に当っていたら、経過はずいぶんと違っていたものになったかも知れない。この面で平田に匹敵する人材が今の協会にいるとは考えにくい。

 つまりは、これまでと違う試みをするのなら、違う体制も必要だということだ。
 強化担当の技術委員長が、技術的な面だけを見るのなら、現場の指導者経験で十分だった。日本に縁があり、協会ともすでに関係のある人物に監督をオファーするのなら、それほど難しくもないだろう。
 だが、今回のように、アウェーでの交渉事を一手に担うというのであれば、それなりの力量が必要になる。例えば、グルノーブルから祖母井秀隆会長を引き抜いてくる、というようなやり方がよいのかも知れない。

 原博実が現在取り組んでいる交渉は、協会にとっても新しい挑戦だ。Jリーグのクラブが個別的にやったことはあっても、協会が組織的に取り組んだことのない戦いである。
 日本代表チームががワールドカップで戦った結果、何ができて、何が足りなかったのかを分析し、次の監督人事や代表のコンセプトに生かそうとしている(んだよな?)ように、この交渉そのものについても、その過程を分析し、今後の技術委員会の在り方や体制、代表監督選びの方法に生かしていくことを望む。
 そういう面も含めて、原委員長の戦いを見守りたい。

 現時点で代表監督が決まっていないことが異常な事態だとは必ずしも思わない。武藤さんが論じているように、来年1月のアジアカップは、そのための短期体制を組んで臨んだってよいと思う(そもそも、こんな時期にアジアカップが組まれることの方が異常なのだ。そうなった経過はよく知らないが)。

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