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2011年6月

無事是貴人。

 中日の岩瀬仁紀の通算セーブ数が286に達し、高津臣吾と並んで日本一になったことを伝える6/13の東京中日スポーツに掲載された、岩瀬の年度別成績を見ながら感心したことが二つある。

 ひとつは、登板試合数だ。プロ入り1年目の1999年にいきなり66試合に登板し、以後昨年までの12年間、すべて50試合以上に投げている。
 こんな投手は他にいない。その後、岩瀬に抜かれて通算セーブ数で2位になった高津が50試合以上に登板したのは、各国リーグ合わせて実働19年のうち4年。3位の佐々木主浩は16年中6年(うち3年はシアトル・マリナーズ在籍時)。4位の小林雅英は12年中4年。
 登板数はクローザーよりも中継ぎの方が多くなる傾向があるが、あれほど投げまくっていた印象のある鹿取義隆でも50試合を超えたのは19年中3年に過ぎない。吉田豊彦でも20年の現役生活のうち、3年連続3回どまり。現役では、藤川球児が中継ぎ時代と合わせても10年中5年、久保田智之が8年中4年。最近ではジャイアンツの越智大祐と山口鉄也が3年連続で50試合以上登板しているが、あと9年もこのペースを続けるなんて、考えただけで気が遠くなるに違いない。
 
 もっとも、1950〜60年代には化け物じみたタフな投手が大勢いて、通算登板数トップの米田哲也は1956年のプロ入りから13年間のうち11年で50試合以上に登板している。先発ローテーションに入りながらリリーフもしていたので、投球回数も毎年200台後半から300台。金田正一も50試合以上投げた年が20年中11回、稲尾和久は14年中9回。梶本隆夫、小山正明など数え始めればきりがないほど、登板試合数の上位には、往年の大投手が並んでいる。

 昔の大投手たちがなぜそれほどタフだったのかを論じはじめたら大変なことになるので(というより私には正直よくわからない)、ひとまず棚上げして、ここではリリーフ専業投手というものが日本のプロ野球に現れ始めた1970年代半ば以降に絞って話を進めることにする。

 重ねて言うが、現代のリリーフ投手として、岩瀬の堅牢さは群を抜いている。
 これほど投げ続けるシーズンが3年も続ければ、たいていの投手は故障するか成績が落ちる。しかし岩瀬の場合、明らかにダメだった年というものがない。防御率が最も悪かったのは2001年の3.30だが、61試合に投げて8勝3敗、特に悪いとは言えない。クローザーに転向した2004年以後は、勝ち数が負け数を上回った年はないのだが、セーブが30も40もあれば文句はあるまい(そもそもクローザーにとっては、勝ち星は必ずしも成功を意味しない)。
 振り返ってみれば2004年の2勝3敗22セーブという数字は多少物足りないが、それは翌年以降の成績が凄すぎることから来る印象で、クローザーとしては及第点だろう。

 私は、プロ野球選手にとって最も大事なことは、「数多くの試合に出て、一定レベルの成績を残し続ける」ことだと思っている。
 毎年百数十もの試合を行うプロ野球では、観客がその大半を見ることは難しい。球場に足を運ぶのはさらに難しい。年に一度どころか、もしかすると一生に一度くらいしかスタジアムで野球を見ることができないファンに対して、選手がなすべき最低限の仕事は「試合に出る」ことだ。「試合に勝つ」とか「活躍する」というのは、その先にあることだ。相手のいることだから、どんなに頑張っても勝てない日もあれば打てない日もある。それでもスター選手がグラウンドに現れ、頑張っている姿を見せれば、ファンは満足はしなくても納得はできる。MLBでいうところのconstancyは、いわば選手の観客に対する誠意の結晶なのだ。
 増して岩瀬はクローザーだから、「姿を現す」ことは「勝利を見せる」ことにほぼ等しい。この「ほぼ等しい」という状況を6,7年も保っているのだから、見事というほかはない。
 
 プロ野球に関する言説では、こういう「丈夫で長持ち」する選手が話題に上ると、よく「無事是名馬」という言葉が持ち出される。これは一体どこから来た表現なのだろうかと調べてみたら、意外なことが判った。「臨済録」に「無事是貴人(きにん)」という言葉があり、競馬好きの菊池寛がこれをもじって言った言葉なのだという。元ネタは禅語というわけだ。

 <当然のことを造作なく当然にやることが平常であり、無事というわけです。いかなる境界に置かれようとも、見るがまま、聞くがまま、あるがままに、すべてを造作なく処置して行くことができる人が、「無事是れ貴人」というべきです。>と<臨済・黄檗 禅の公式サイト>に解説が書かれている。
 勝ち試合の9回表になると当然のようにマウンドに立ち、ほとんど表情を変えず、長い腕から“死神之鎌”の如きスライダーを投げ込み、何事もなかったかのように試合を終わらせる岩瀬には、まさに<すべてを造作なく処置して行くことができる人>である。「名馬」よりも「貴人」が彼にはふさわしい。
 
 
 長くなったので、「感心したこと」の2つ目は改めて。前にtwitterに書いたので、知ってる人は知ってると思いますが(笑)。

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