« 無事是貴人。 | トップページ | 落合博満とは何だったのか。 »

内柴事件と「柔道の安全指導」に関する2011/12/13の連続ツイート。

 ブログの更新はすっかりご無沙汰しているが、このごろ、ツイッター(@nenbtunotetsu)にはちょこちょこと思いついたことを記している。連続ツイートしているうちに、ちょっとまとまった感じの内容になることもある。
 じっくり長文の論考に仕立て直している余裕が残念ながらないのだが、自分用の備忘録も兼ねて、「まとまった感じのもの」は、ここにまとめて記録しておこうと思います。

●内柴の件に何か言及してるだろうかと全柔連の公式サイトを見に行ったら、その件に関する記述はなかったが、「柔道の安全指導」というパンフレットのpdfを見つけた。一読して驚愕。「指導の名の下に人を殺してしまっている」という危機感が感じられない。

●本文の最初の頁に「指導者は(略)被害を最小限に食い止める努力をしています。それでも残念ながら事故が起きることがあります。そうした場合でも、従来と異なり、交通事故や医療過誤における損害賠償と同じように指導責任や管理責任を追及し、訴訟になるケースが多くなっています」とある。

●医療過誤は、基本的には病気やケガの治療における失敗だ。ほっとけば悪化するのを食い止めようとして医療行為を行う。柔道で怪我をしたり死んだりした人々は、ほっとけば何も問題はなかった。しなくてもいい柔道をしたために命を失ったり、生涯続く後遺症を背負ったりした。一緒にされては困る。

●全体を通読すると、隅々まで「指導者性善説」にのっとって書かれている。指導者が事故防止に全力を尽くしているのに不可抗力で事故が起きているかのようだ。しかし、死亡事故の報道を遡れば、指導者自身が技をかけ続けた結果、子供を死なせてしまった例が少なくない。危険なのは指導者自身だ。

●全柔連には、このパンフレットの付録として、過去の事故事例や訴訟の判例を集めた冊子を全国の指導者に配布することを勧めたい。その方がよほど抑止力になるのではないか。ただ、事故のさまざまな統計も記載されているので、資料集としては役に立つ。

●柔道界が指導者に対してこんなに甘い考えだから内柴事件みたいなことが起こる…と言ってしまうのは短絡だろう。女性の指導に若い男をあてるのは、やめた方がいいとは思うが。あれだけ女性のメダリストがいるのに、なぜわざわざ指導経験の浅い男性を招いたのか。大学側の考えも理解しづらい。

●と思ってちょっと調べたら、柔道の女子選手が引退後に指導者になる環境はあまり整っていないらしい。http://www.47news.jp/topics/entertainment/2011/08/post_4256.php 「男社会だからセクハラが横行する」という可能性もありそう。というわけで、内柴事件の再発防止には「女子の指導者を育てること」をお勧めしたい。

●ちょっと訂正。「女子の指導者を育てること」というより、「女子が指導者として生活できる環境を整えること」だ。例えば、「どこかの大学が女子柔道部の指導者を紹介してほしいと言ってきたら、女性の指導者を紹介する」みたいな。

以上。
後で「内柴の件」がわからなくなると困るので新聞記事を引用しておく。

<準強姦容疑>内柴正人容疑者を逮捕 ホテルで女子学生に

 アテネ、北京五輪の柔道男子66キロ級金メダリストで、九州看護福祉大(熊本県玉名市)の女子柔道部コーチを務めていた内柴正人容疑者(33)=同市=が部員の学生に性的暴行をした疑いが強まったとして、警視庁捜査1課は6日、準強姦(ごうかん)容疑で逮捕した。【内橋寿明、小泉大士、喜浦遊】

 捜査関係者によると、内柴容疑者は9月下旬、女子柔道部の合宿遠征で東京都内のホテルに宿泊した際、近くの居酒屋で飲酒させてめいてい状態だった未成年の学生に性的暴行をした疑いがもたれている。「納得いかない。合意だった」と容疑を否認しているという。

 同大学によると、関係者から9月下旬、「学生にセクハラ行為をした」と通報があり、調査を開始。この結果、内柴容疑者によるセクハラ行為があったことが裏付けられたとして、11月29日、「教育職員としての適性を著しく欠く」と懲戒解雇処分にした。警視庁は、女性からの被害届を受け、関係者らから事情を聴いていた。

 内柴容疑者は懲戒解雇後、自分のブログに「大学をクビになりました。そして、僕は旅に出ました」などと記していた。

 内柴容疑者は熊本県合志市出身。04年アテネ、08年北京の両五輪で金メダルを獲得。09年から同大学の非常勤講師を務め、10年4月に新設された女子柔道部のコーチになり、同年10月に現役を引退。今年1月から単年度契約の客員教授に就いていた。

(毎日新聞 12月6日(火)13時8分配信)

追記 2011.12.31
 その後、内柴は起訴されたが、それ以前に「逮捕されただけで犯罪者扱いなのか」という批判をネット上でよく目にした。内柴自身がインタビューに答えた雑誌記事などを読むと、行為そのものは認めているようだ。刑法上の犯罪にあたるかどうかは別として、「未成年の教え子に酒を飲ませて性行為に及んだ」という時点で、スポーツ指導者としてはアウトだと私は思う。

|

« 無事是貴人。 | トップページ | 落合博満とは何だったのか。 »

コメント

お久しぶりです。
今回は映画ではなく、守備範囲外ですがコメントさせていただきます。

練習中の身体な怪我(いかなる練習法なのかという問題はありますが)とは別に、このようなセクハラ事件は程度の差はあれ大学に限らず中学・高校でも、スポーツの種別に関係なく起こっているものだと思われます。ただ、表面化しないだけでしょう。
私が身近に見聞した例では某球技の部活で起こりました。

部活をすべての生活の中で優先し、学校も部活によって選択し、入学してきたような生徒にとって、指導者を訴えるということは以後その部活、スポーツをあきらめることであり、その学校に入った意味も失うことです。簡単にできることではありません。
また、訴えが出された時に指導者とその生徒のどちらを信じるのかという問題もあります。
さらに同じ部員同士でも被害者とそうでない者の間には壁があり、「あの子はウソ言ってんじゃないの」などという「風評」をたてられたりもします。

まあ、今回の事件は警察沙汰になったから明らかになったわけですが、水面下には一体どれほどのものが隠れているのか……。

このような事件はスポーツ指導の本質に内在しているものではないかと言ったら、言い過ぎでしょうか。

投稿: さわやか革命 | 2011/12/31 14:10

>さわやか革命さん

お久しぶりです。
ご指摘のような事例が実際に多いのかどうかを云々する立場にはありませんが、それなりの頻度で起こってもおかしくなさそうな話ではあります。

ただ、ご指摘の内容はスポーツ指導に限った話ではなくて、たとえば大学院生と指導教官とか、似たような権力関係が存在する世界はいろいろあるように思います。
指導内容の透明性、指導される側の流動性と選択権といったことがある程度確保されないと、好き勝手をやりはじめる「指導者」が、どの分野にもいる、ということなのかと。

私個人の感覚かも知れませんが、そもそも<部活をすべての生活の中で優先し、学校も部活によって選択し、入学してきたような生徒>というもの自体がバランスを欠いた存在であり、そういうものを前提として「どう守るのか」などという問題の立て方をすると、なかなか厄介なことになりそうに思います。
たとえばサッカーのように、部活とクラブチームという2つの高水準の選択肢があれば、生徒はそこまで追いつめられずに済むかもしれません(実際にサッカーの世界で指導者によるハラスメントがどの程度あるのかは知りませんが)。

投稿: 念仏の鉄 | 2012/01/02 19:46

亀レス(←完全死語)すいません(^^;)

|というもの自体がバランスを欠いた存在であり

そこまで言ってしまいますか^_^;
ところが、これは別に珍しい存在ではないようです。私も中高時代は帰宅部だったんで想像もつかなかったし、未だに理解もできません。

公立学校で、部活の優秀な指導者である教員が他の学校へ異動すると、それに伴ってその部活目当ての入学者が急に増えるという現象があるのです。
若年者のスポーツ活動がそういう構造に乗っかっている部分があるというのはいいことなのか、悪いことなのか分かりませんが。

それはともあれ、今回の事件はスクール・セクハラといわゆるアカデミック・ハラスメントの両面があるということですね。
ただ、学校は閉鎖的な場所なようですから、改善されるかどうか期待はできないようで……。

投稿: さわやか革命 | 2012/01/06 22:17

>さわやか革命さん

>そこまで言ってしまいますか^_^;

それが悪いとは言いませんが、生徒の学校との付き合い方としてスタンダードとは言えないと思います。部活は正規のカリキュラムではないのですから。

もちろん、実態としてご指摘のような学生が大勢いるのは事実ですし、優秀な指導者のもとに優秀な選手が集まる現象も珍しくありません。
端的に言って、日本のアマチュアスポーツの多くの競技では、若年層への指導を学校に依存してきた歴史があります。そのことには功罪両面があり、「罪」には指導者によるハラスメントも含まれる、ということです。

しかし、スポーツの指導を受ける場を学校に限定しなければならない理由はない。実際、水泳、体操、フィギュアスケートなどの分野では、日本代表クラスの選手はクラブや個人コーチに指導されていることが珍しくありません。そういう競技ならば、選手にも逃げ場は(理論上は)ある。他の競技もそれに近づいていくのが理想だと思います。

そういう意味ではアカハラの方が深刻かと思います。論文の指導は、大学でなければ受けられませんから。

投稿: 念仏の鉄 | 2012/01/08 00:13

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/50507/53486501

この記事へのトラックバック一覧です: 内柴事件と「柔道の安全指導」に関する2011/12/13の連続ツイート。:

« 無事是貴人。 | トップページ | 落合博満とは何だったのか。 »