« 「侍ジャパン」商法の行方。 | トップページ | アギーレ八百長疑惑があぶりだす日本メディアのメンタリティ。 »

そうまでして東京五輪で野球をやりたいのかどうか、よく考えておいた方がよい。

 IOCの臨時総会で、開催都市の組織委員会が追加種目を提案できるという改革案が承認されたというニュースを、「これで東京五輪で野球やソフトボールがやれる可能性が出てきた」とテレビや新聞やスポーツ紙は祝賀ムードで報じていた。
 私とて五輪で野球をやるとなれば、テレビにかじりついて見るに違いないとは思う。だが、今の時点では、むしろ「何だかなあ」と思う材料が多すぎて、素直に祝賀ムードに乗る気にはなれずにいる。
 
 最初に思ったのは「また代表監督が大変なことになる」という件だ。
 現在、「侍ジャパン」と呼ばれる(というより自分で名乗っている)日本代表の監督は小久保裕紀が務めている。前のエントリでも書いた通り、おそらく2017年のWBCまでは彼が監督を務めることになるのだと思う(来年開かれるらしいプレミア12で、よほどひどい負け方でもしない限りは、そもそも解任する理由を見つけるのが難しい)。

 2017年のWBCでファイナリストになるくらいの好成績を残せば、小久保は、本人が望めば代表監督を続けられるかもしれない。彼の心中は(現時点ではたぶん彼自身にも)わからないけれど、一度は福岡で監督をやりたいのではないかという想像は、そう無理なものではないと思う。WBCでの好成績は、そのためには有力な材料となることだろう。逆にWBCで国民が失望するような結果となれば、そのまま代表監督を続けることは難しい。だから、いずれにしても小久保は2017年までで一区切りになる可能性は強い。
 
 目下の主要大会の開催間隔は、WBCが4年に1度、プレミア12はその中間年に開催されることになるようなので、ポスト小久保の代表監督は、おそらくこういうスケジュールに直面することになる。

2019 プレミア12
2020 東京五輪
2021 WBC
 
 これは大変だと思う。とりわけ東京五輪では、監督はとてつもない重圧にさらされることになるだろう。
 ただでさえオリンピック大好きな日本人が、地元開催となれば、金メダルはほとんどノルマのように期待されることになるだろう。追加種目は開催都市が決める。野球をやろうなどと考えるのは、日本のほかにはアメリカ合衆国、メキシコ、韓国くらいしかなさそうだから(野球が盛んなキューバやドミニカがオリンピック開催に手を挙げるとは考えにくい)、2020年の次の機会はいつ来るかわからない。つまり、ここで失敗すると取り返すチャンスは二度と来ない。
 
 試合内容自体も難しい。連戦になることはもちろんだが、特異なレギュレーションになる可能性がある。昨年だったか、IOCに追加種目として選ばれるために7回制を検討していると伝えられた。タイブレークは北京五輪で実際に採用された。WBCの投球数制限どころではない不慣れな試合形式だ。
 
 こんな大変な大会で監督を引き受けようという指導者が、果たしているだろうか。NPBでの指導経験を持たない小久保が代表監督に選ばれたのは、打診した候補にことごとく断られたからだ。第2回WBCでも代表監督選びは罰ゲームの様相を呈していた。WBCに2度優勝し、プロ野球における代表チームのプレゼンスは上昇し、「代表を目指す」的なことを口にする若い選手も出てきた。だが、「代表監督になりたい」と明確に発言した日本人指導者を私はいまだに知らない。小久保の業績やその評価によっては、若い指導者の中からそういう人が出て来るのでは、と期待してはいるが、そう信じられるだけの材料は今のところなく、あくまで希望に過ぎない。
 
 もうひとつ、どんよりした気分になったのは、野球とソフトボールの元代表監督が並んで満面の笑みで記者会見する写真を見た時だ。これも五輪競技に復帰するための方策として、野球とソフトボールの国際競技団体は合併してひとつになった。男女平等を重んじるIOCに気に入って貰おうと、「男の野球と女のソフトボール、合わせて一つの競技」という枠組みをこしらえたのだ。
 もともとオリンピックでは、野球は男子のみ、ソフトボールは女子のみしか行われていないので、合理的といえば合理的ではある。だが、野球そのものにも女子競技はあり、しかも日本はこの分野では、ワールドカップで3連覇している圧倒的強豪国であり、国内リーグも行われている。それなのに五輪種目となる可能性を、競技団体自身が閉ざしてしまっているわけだ。
 
 私は女子野球の選手でも指導者でもないし、特にファンというわけでもないので、女子野球の立場を代弁するような僭越な真似はしない。ただ、傍からみれば、おかしな話だと思うだけだ。
 
 もうひとつ言えば、いわゆる「侍ジャパン」はプロの代表チームだけでなく、あらゆる年代の日本代表チームに共通の愛称とされ、そこには女子代表も含まれている。侍ジャパンの公式サイトには女子のページもあり、ワールドカップでの活躍も誇らしげに報告されている。そして、各年代に共通の「侍ジャパン」のユニホームを、女子代表たちも着用している。彼女たちは「侍ジャパン」だけれども五輪代表ではない、というのもまた、筋が通らない話だと思う。
 
 男子ソフトボールについても同じことが言える。ソフトボールは女性専用の競技ではなく、日本にも男子ソフトの社会人リーグもあれば日本代表もある。私はソフト男子でもないし、関係者に知り合いもいないが、自分が当事者だったら、あんまり面白くはないかもしれない。
 
 という具合に、オリンピックに対する野球界の姿勢には、いろんな無理や屈折がある。あまり無理をしすぎて後遺症が残るようなことにならなければよいと思う。
 
 本番でどういうレギュレーションになるのかわからないが(全体の人数もぎりぎりまで絞らなくてはならないから、過去の五輪と同様、選手が打撃投手を務めるようなことになる可能性も高い)、いざ試合をやってみて、あまりに普段と異なる規則の数々に戸惑って不成績に終わったりしたら、関係者の誰かが「こんなのは野球ではない」などと言い出すかも知れない。
 確かにそれは日本でやっている野球とは違う。だが、IOCに追従し、そんな奇妙な形に競技内容を変化させてまでオリンピックの場で試合をすることを望んでいるのは、野球界自身なのだ。

 そうまでして東京五輪で野球をやりたいのかどうか。
 そして、やるとなったら腹を括って、野球界の総力を結集して勝利を目指すという、これまで一度も実現したことのない取り組み方をする覚悟があるのかどうか。
 野球界は今のうちによく考えておいた方がいいと思う。今の祝賀ムードのまま何となく大会に突入して、「こんなはずじゃなかった」などということになったら、いちばん傷つくのは、日本野球そのものなのだから。

|

« 「侍ジャパン」商法の行方。 | トップページ | アギーレ八百長疑惑があぶりだす日本メディアのメンタリティ。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/50507/60800844

この記事へのトラックバック一覧です: そうまでして東京五輪で野球をやりたいのかどうか、よく考えておいた方がよい。:

« 「侍ジャパン」商法の行方。 | トップページ | アギーレ八百長疑惑があぶりだす日本メディアのメンタリティ。 »