« タイブレークの後で。 | トップページ

「いてまえJAPAN」は、いてまえるのか。

 最後に拙い試合をしてしまったものだ。
 第4回WBCで日本代表はイスラエルを8-3で破り、1次ラウンドに続いて2次ラウンドも3戦全勝、1位で準決勝進出を決めた。
 WBC日本代表には公にアナウンスされたノルマはないけれど、もし設定するとすれば準決勝進出だと思っていたので、それが果たされたという結果については、めでたい限りである。小久保監督も選手たちも、最低限の義務は果たしたと言ってよいだろう。日本ではこのくらい当たり前だと思っている人が多いだろうけれど、ベスト4に残り続けることは容易ではなく、4大会連続でベスト4に進出した国は日本だけ(そもそも3大会連続が日本だけ)。世界の強豪としての一定の地位はすでに保たれた。
 
 とはいうものの、本当の勝負はここからだ。
 日本での6試合すべてをスタンドから見物した実感としていえば、今大会の日本代表は、過去3大会とはかなり異質だ。日本ラウンドのありよう自体が異質だったとも言える。
 5試合目のキューバ戦に競り勝った後で、ツイッターに<この代表は「いてまえジャパン」だな>と書いた。日本ラウンド(1次、2次を総称してそう呼ばせてもらう)全体を振り返っても、このフレーズはこのチームの特徴を言い表しているように思う。
 
 「いてまえ打線」というのは往年の近鉄バファローズにつけられた愛称だ。長距離砲を並べた強力打線で、不安定な投手力を補い、打ち勝つチーム。2001年、最後に優勝した年のチーム打率は.280で、チーム防御率は4.98。1試合当たりの平均得点が5.50で平均失点が5.32と書けば、どんなチームか想像がつくことだろう。
 今の日本代表の投手力は、そこまで悪くはない。けれども、優勝した2回が、強力な投手陣を前提に、少ないチャンスを生かして得点し、それを守り抜くスタイルが基本だったのに対し、今大会のチームは、少々の失点は打力でカバーする、取られたら取り返すスタイルで準決勝までたどり着いた。
 たぶん、小久保監督がそういう野球を目指したわけではないだろう。MLBの日本人投手が全員不参加、さらに絶対的エースだったはずの大谷も欠場という台所事情から、結果的にそうなっているのだと思う。
 エースと目された菅野も初登板のオーストラリア戦では実力を発揮したが、2試合目のキューバ戦では打たれ、次の試合に不安を残している。
 
 一方、打線には柱がある。筒香ほど強力な4番打者を、これまでの日本代表で見たことがない。第一回の松中は長打を捨ててフォアザチームに徹して結果を残した。第二回の城島*、第三回の阿部は、打者としては筒香に見劣りしない実力を備えていたものの、ともに正捕手を兼ねていたためか、国内リーグで見るほどの打棒を発揮することはなかった。筒香は昨年のNPBで見せたそのまま、あるいはそれ以上の活躍を見せている。爆発的な本塁打と、チャンスで内野の間を抜く打撃を兼ね備えている。打席に入る前に一度、ぶるんと大きく素振りをする姿を見ると、ありがたくて涙が出てきそうだ。これほどの「ありがたいオーラ」を感じさせる打者は、私にとっては松井秀喜以来である(というより松井と筒香しかいない)。
 周囲を固める中田、山田、坂本らも、ここぞという場面で代わる代わるよい仕事をしている。ここに大谷と柳田がいたら、どんな凄い打線になったかと思うが、現状でも大したものではある。
 
 ただし、では日本代表の優勝が有力なのかといえば、私はかなりの懸念を抱いている。渡米後はこれまでにようにはいかないのではないか。極論すれば、本番はこれからではないか、というくらいに。
 結果から言えば、日本代表がこれまで対戦したチームは、それぞれに強みはあるものの、いささかバランスの悪い戦力だった。とりわけ投手陣は、大会の中でも上位に位置するような国がいなかったのではないかと思っている。

ここまでの日本代表の試合のスコアは以下の通りだ。

●1次ラウンド
日本11-6キューバ
日本4-1オーストラリア
日本7-1中国

●2次ラウンド
日本8-6オランダ(6-6からタイブレーク)
日本8-5キューバ
日本8-3イスラエル

 トータル46得点、1試合平均は7.7点。強力打線といってよい。
 ただし、4回終了時のスコアを並べてみると、少々印象が変わる。

●1次ラウンド
日本2-1キューバ
日本1-0オーストラリア
日本5-1中国

●2次ラウンド
日本5-5オランダ
日本2-4キューバ
日本0-0イスラエル

 よく打っているのは中国戦と2次ラウンドのオランダ戦だけで、さほど点数が入っていない。大量得点の多くは中盤以降に入っていることがわかる。
 終盤に得点しているのは勝負強さの表れでもあり、それはそれで結構なことだ。ただ、WBC特有の条件として、球数制限というものがある。1次ラウンドでは65球、2次ラウンドでは80球だった。先発投手が投げられるのは通常4〜5回となる。
 従って、4回までの得点が少ないのは、あまり先発投手を打てていないことを意味する。大量得点は主に二番手以降に登場した投手を打ち込んだ結果だ。これまで対戦した国の投手の経歴をつまびらかに把握してはいないのだが、スタンドから見た限りでは、さほどレベルの高い救援陣を持ったチームはいなかったように思う。いつも好投手を擁する韓国や台湾が勝ち上がってくれば、日本の打線はもっと苦しんだかもしれない(もっとも、両国が1次ラウンドで敗退したということは、今回の投手陣は大したことがなかったのかもしれないが)。

 準決勝で対戦するUSAの投手力は、今までより確実に向上する。
 第一に、先発投手の球数制限が大幅に緩和される。準決勝以降は95球。先発投手の調子が良ければ7回くらいまで投げられる数だ(最近の先発投手は完投しないのが普通だが、昔は100球以内の完投勝利もしばしばあった)。強力な先発投手には球数を投げさせて4回くらいでお引き取り願うことが可能だったこれまでとは枠組みが異なる。
 第二に、ブルペンが充実している。MLBで活躍するセットアッパー、クローザーが何人もいる。投手が交代してもレベルは落ちない。むしろ上がることもある。試合後半で今までのように撃ちまくるのは難しくなる。
 MLBの第一線で活躍する投手陣を、果たして日本代表の打線は打てるのか。MLBでの実績を物差しにすれば、USAの打線はオランダやキューバを上回るであろうから、ある程度の失点は覚悟せざるを得ない。
 となれば決勝進出の可否は、日本の打線がUSAの投手陣を打てるか、という一点にかかっていると思う。

 ここまでの「いてまえJAPAN」は、勢いに乗って大量点を奪う迫力はある反面、1点が欲しい時に着実に1点をもぎ取る力量は物足りない。そういう局面で思い切り引っ張って凡退する選手は少なくなく、残塁が多い、という印象がある。
 選手たちには、局面によっては、走者を進めるバッティングに切り替えることを望みたい。これまでそういうバッティングに徹していたのは小林だけだが、小林を見習えとも言いづらい。見習うべきは青木である。トータルの数字はあまり良くないけれど、彼は局面によっては、右方向にゴロを打って走者を進めるという意図がはっきりとうかがえる打撃をしている。さすがMLBで生き延びてきた打者だと思う。
 
 小久保監督については、6連勝という結果は評価したい。選手たちのコンディションやチームのまとまりを見れば、試合が始まる前までに、良い仕事をしていることはうかがえる。
 反面、試合での采配については懸念が残る。とりわけイスラエル戦。2次ラウンドの最終戦、「勝利ないし4点差以内での敗北」で準決勝進出が決まるという条件の試合だ。力量では劣るが勢いのある相手に対して確実に勝利するためには、とにかく早めに先制点を奪って「日本には勝てない」と思わせることが有効ではないかと私は思っていた。
 日本は1回から3イニング連続で、先頭打者がヒットで出塁した。しかし二番目の打者は、ただバットを振り回して凡退し、走者を進めることができなかった。結果的に3イニングとも無得点。3回表、死球で出塁した先頭打者をバントで送り、右への内野ゴロで二死三塁の状況を作ったイスラエルの方が(得点には至らなかったけれど)、よほど日本野球っぽい攻撃だった。この膠着状態から先制でもされたら、かなりまずいことになりそうだと懸念しながら見ていたのだが、幸いにも千賀がイスラエル打線をねじ伏せ、6回裏に筒香の凄まじい本塁打で先制し、そこから5点を奪った。筒香の打球は、まさに「日本にはかなわない」と思わせるに十分なものだったように思う。
 
 そうやって8-0までリードを広げたのだが、驚いたのは9回表。登板したのは牧田だった。端的に言えば「大魔神佐々木を8−0の9回に投げさせますか権藤さん」ということだ。牧田はオランダ戦、キューバ戦と、2試合続けて本当に厳しい状況を乗り切ってきた。その2チームより明らかに劣る打線に、8−0という大差の中で、集中して投げろというのは酷な話ではないか。むしろ、例の押し出し寸前でかろうじて抑えてから投げていない岡田とか、登板時にあまり良くなかった藤浪や則本が自信を取り戻す機会にでもすれば良いのでは、と。
 結果として牧田はコントロールに苦しんで3点を失い、大勝のはずの試合は、かろうじて逃げ切ったような気分で終わることになった。
 
 拙い采配だとは思うけれど、それを理由に小久保監督を強く批判するつもりはない。彼としては精一杯やっている(試合後の球場でのインタビューはいつも声が上ずっていた)。根本的には、指導経験のない人物をいきなり代表監督に据える方がどうかしているのであり、それも意中の人(人々?)に断られた末のことだ。故障辞退者はもとより、MLB所属投手が参加できないのも、監督に初心者を据えることしかできないのも、すべてひっくるめて日本野球の総力だ。本番が始まってからは、今あるこのチームが日本代表なのだと割り切って私は応援してきたし、試合を経るごとに、応援するに足るだけのチームに成長してきたとも思う。
 
 渡米後の練習試合は2連敗、芳しくない結果に終わった。試合自体を見てはいないのだが、時差ぼけ解消のための調整試合を過剰に気にしても仕方ない。選手たちは準決勝に焦点を当てていると思う。
 相手はUSA。360度から応援されてきた東京ドームからアウェーに移り、あらゆる面で真価を問われる試合となる。良いプレーを期待したい。願わくば筒香や中田や山田の目の覚める一発を。そして今大会ではまだほとんど見ていない日本式スモール・ベースボールを。豪打者たちを翻弄する牧田の締めくくりを(きりがない)。




*ここは、やや勘違い。城島が4番を務めた大会は2004年のアテネ五輪だった。第2回WBCで城島が4番を打ったのは決勝を含む2試合だけで、大会全体では主に村田、稲葉が交代で務めた。第2ラウンドで負傷離脱した村田は、出場した試合ではよく打ったが、不動の4番打者という地位を確立していたわけではない。城島は大会全体では.333の打率を残したが、4番打者としては1安打のみ。特に決勝では無安打でチャンスを潰しまくり、苦戦の原因となった。

|

« タイブレークの後で。 | トップページ

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/50507/65020335

この記事へのトラックバック一覧です: 「いてまえJAPAN」は、いてまえるのか。:

« タイブレークの後で。 | トップページ