とりあえずCSこのままでもいいんじゃね、という話。
日本シリーズが面白くなっている。
戦力差は圧倒的とみられた組み合わせ。初戦は下馬評通りにホークスが圧勝し、そのまま3連勝で大手をかけたものの、試合内容ではベイスターズも着実に押し返していた。そして第4戦で濱口が7回までノーヒットノーランという圧巻のピッチングで初勝利を挙げ、続く第5戦も打ち合いに競り勝って連勝。結果はどうあれ、なかなかいい戦いを見せている。
ソフトバンクとDeNAという組み合わせが決まった時には、DeNAが日本シリーズに出ることの正統性を疑う声が世の中に満ちていた。シーズンの結果は1位の広島から14.5ゲーム差の3位。「長いシーズンはなんだったのか」という嘆きが、カープファンに限らず、いろんなところから聞こえてきた。
パのCSファイナルも、ホークスと、15.5ゲーム差で3位の楽天の対戦となったため、これで3位どうしの日本シリーズになったらどうするんだ、という懸念を多くの野球ファンが抱いたことだろう。結果的には、パの代表はシーズンを圧勝したホークスとなったので、日本シリーズもまあ格好がついた次第。
クライマックスシリーズという制度には、常にこういうリスクがある。度々起こるようではシーズンと日本シリーズの重みがまとめて薄れてしまう。かといって、常にシーズン1位チームが勝つようでは、あまり面白くない(というのが見物人の勝手な感情でもある)。
実際のところ、CSが始まった2007年から今年まで11回のファイナル勝者のシーズン成績を振り返ると、このようになる。
セ 1位8回、2位2回、3位1回
パ 1位10回、2位0回、3位1回
トータルでは22チームのうち1位18チーム、2位2チーム、3位2チーム。圧倒的に1位チームが日本シリーズに進んでいる。そして、2007年の中日(シーズン2位)と2010年のロッテ(シーズン3位)は、日本シリーズを制して日本一となった。
3位チームが日本一となれば「なんだかなあ」という印象を持つ人は多くなりそうなものだが、当時レギュラー捕手だった里崎が「史上最大の下克上」というキャッチコピーを編み出したことで、ロッテが勝ち上がっていくことがむしろ快挙であるかのように受け止められ(いや、快挙といえば快挙なんだけど)、日本一になったことを「3位のくせに」と非難する風潮は目立ったなかったと記憶している。
(3位と言ってもこの年のロッテは首位から2.5ゲーム差という僅差だった。また、敗れた中日は2007年にシーズン2位から日本一になったのだから、制度に文句を言う筋合いでもない)
話を戻す。
これまでのCSでは、計22のシーズン1位チームのうち、18チームはCSを勝ち抜いた。81.8%の勝率である。これを人々がどう評価するか、ということになるが、まあちょうどいいレベルなのではないか、と私は思う。野球における「勝率81.8%」は、シーズン勝率としても、特定チーム同士の対戦成績としても、まずありえない圧倒的な数字なのだから、結果としてはシーズン1位チームに優位な制度となっていると考えてもよさそうだ。
そんなはずはない、もっとシーズン1位チームが負けているはずだ、という印象を持つ人もいるかもしれない。私も集計してから「あれ?」と思った。これは理由がある。
両リーグが足並みを揃えてCSを始めた2007年に先立って、パ・リーグは2004年から3年間、独自のプレーオフを実施した。そして、04年、05年と続けて、シーズン1位だったホークスが敗れた。この結果を受けて、06年にはシーズン1位チームに1勝のアドバンテージが与えられたが、この年のホークスは3位で、アドバンテージがむしろ不利に働いたという皮肉な現象も起こった。
ホークスにとっては踏んだり蹴ったりの理不尽なポストシーズンだったのだが、敗れた王監督はぐっと堪えて、制度批判をしなかった(唯一、1位チームが待たされる期間が長すぎることには苦言を呈していたが)。賛否ありつつも、セも採用して現行のCS制度が始まり、存続しているのは、この王監督の苛烈な自制心のおかげだと私は思っている。彼ほど影響力のある人物が本気で怒って文句を言ったら、制度自体が持たなかったのではないか。
そして、これらの試合そのものの白熱ぶり、面白さもまた、制度の定着に一役買ったに違いない。当時、このブログにえらく熱い観戦記(テレビですが)を書いたのを覚えている。
現在のCS制度のデメリットとして指摘されるのは「レギュラーシーズンの重みが薄れる」「レギュラーシーズン勝者にとって不公平である」という点にほぼ尽きている。
一方、メリットとしては「CS自体が注目され、客が入り、テレビでも放映される」「シーズン終盤の消化試合がなくなり、真剣勝負の試合が増える」という2点が大きい。商業的にも品質的にも価値の高い試合が増える、ということだ。
もう10年以上前のことだから皆忘れているかもしれないが、ポストシーズンが日本シリーズしかない時期、優勝が決定した後のリーグ戦の内容は酷いものが多かった。どのチームも目標を見失い、勝敗度外しで若手を起用したり、露骨な個人タイトル狙いの選手起用があったりした。優勝を狙えそうにない戦力の球団にとってはペナントレース全部が消化試合のようなものだったかもしれない。
が、客観的に見て優勝は無理だろうというチームにとっても、3位であれば現実的な目標になりうる。優勝が決まって以後も、2位と3位を争うチームが2〜4チームはあるわけで、そうなると、いわゆる消化試合はほとんどなくなり、勝ちにこだわる戦いが増える。その点は導入時の狙いが実現されていると思う。
CSそのものの面白さは説明するまでもないだろうし、レギュラーシーズンの試合のテレビ放送が激減した現在の状況では、CSが一部とはいえ民放地上波で放送され、熱心なプロ野球ファンではない人々の目に触れる機会となっている現状は、プロ野球にとって貴重なものとなっている。
というわけで、メリットとデメリットを天秤にかけてどう評価するかはそれぞれお考えもあるだろうが、私は現行のCS制度は悪くないと思っている。
理想論を言えば両リーグ2チームづつ増やして東西2地区に分け、それぞれの1位チームがプレーオフを戦って、勝った者どうしが日本シリーズを戦うのが公平だし、そうなれば良いと思っている。が、もしそれが実現したら、我々は、その理不尽さのないポストシーズンに、少なくとも当初はちょっとした物足りなさを味わうかのもしれない。
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コメント
2005年のポストシーズンは、ホークスファンにとっては、心破れ、膓ちぎれる、そういうものでした。(2004年に親会社が代わったばかりでもありましたし。)
そんなとき「その試合に懸かっているものの重さ」のエントリにたどり着き、涙が溢れました。ささくれだっていた心が、本当に癒されました。
本当に、その節はありがとうございました。
ただ、今思い出しても2005年のプレーオフはすごい試合でした。息もできぬほど緊密な空気の中、繰り広げられた命懸けのプレイ。理不尽の極みなシステムが生み出した神話的とも言うべき素晴らしい試合。スポーツとは、人の世とは、なんと矛盾に満ちたものなのでしょう!
たぶん、私も感じてしまうのだと思います。「理不尽さのないポストシーズン」に、なんとなく「物足りない思い」を。
本当に、ありがとうございました。一生の思い出です。
投稿: 馬場伸一 | 2017/11/09 15:51
>馬場さま
懐かしいですね。
2004年の近鉄消滅やリーグ再編、
ストライキなどを経験しただけに、
やる側も観る側も懸命だった時期でもありました。
その意味では、CSが定着した今となっては、
あれほどまでに魂のこもった試合には
なかなかならないとは思いますが、
それでも選手たちは(特にDeNAの投手陣は)、
従来の自分を超えたプレーを見せていたと思います。
>(2004年に親会社が代わったばかりでもありましたし。)
そう、シーズンオフのたびに身売りの危機が伝えられたり、
実際に身売りをしたりしても、
チームとしてのホークスが揺るがなかったのも、
王監督が毎年いちはやく留任を表明したのが大きかったはずです。
投稿: 念仏の鉄 | 2017/11/11 16:24
>王監督がいちはやく留任
まったく同感です。
王会長は、強いチームを作ってくださっただけではなく、そのチームを守ってくださった。変な球団社長から散々振り回されたにもかかわらず。(その高塚猛氏も今年不帰の客となられました。往時茫々たるかな。)
福岡市が、まさに2004年に「名誉市民」をお贈りしているのも、福岡のチームを守ってくださったことへの感謝なのでありましょう。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/shicho/hisho/shisei/002.html
そんなもんじゃ足りない気がしますが(^_^;)
投稿: 馬場伸一 | 2017/11/16 08:20