9月1日のプロ野球実行委員会で、来春の第2回WBCの監督人事は議題に上ったが、結論は出なかった。
<日本代表監督の人選は、加藤良三コミッショナーを中心に、有識者の意見もふまえて進めることで一致した。
実行委では、各球団が人選の方法について意見を交換。「日本シリーズ優勝監督など、選考基準を設ける」「選考委員会を設置する」などの声も出たが、まず、前回のWBCで日本を率いた王貞治・ソフトバンク監督ら、有識者の意見を聞く作業にとりかかることになった。>(読売)
<来年3月に米国を中心に開かれる野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表監督の選考が、加藤コミッショナーに一任されることとなった。(中略)実行委員会では、中日などから「前年の日本一になった監督がWBCの監督をやるという方式は」という意見が出されたが、「現役の監督は難しい」という声もあった。「選考委員会を作っては」という意見も出たが、今月中に結論を出すためには時間がないということもあり、加藤コミッショナーが判断することとなった。前回大会で優勝に導いたソフトバンクの王監督らから意見を聞いて選定を進め、12球団に諮ることとなる。>(朝日)
コミッショナーを<中心に進める>と<一任される>ではずいぶんニュアンスが異なる。どっちなんだと言いたくなるが、まあ1日だけの話し合いでいきなり監督が決まるよりは、選考方法も含めて、きちんと検討した方がいい。
各紙報道を読むと、<一任>という表現は、「今年の日本一監督にする」「選考委員会を作る」といった各球団からの提案が、時間がないという理由で却下されたところから出てきたもののようだ。
昨日までの報道では、「今季日本一監督をWBC監督に」という提案が目立っていた。主導していたのは中日だ。
西川球団社長は<「何のルールもなく恣意(しい)的に決めるのはおかしいでしょう」><「私は星野では駄目だと言っているわけではない。だが、なぜ星野なのかという理由が必要でしょう。それに代表の監督は現役監督でなくていいのかなとも思う」」>と語っている。
ジャイアンツの首領の「星野君の他に誰がいる」という発言に対抗するもの、という印象を受けないでもないが、仮にそうだとしても、これはなかなかよい提案ではないかと私は思っている。
理由はいくつかある。
第1に、現役監督を除外すると、候補者の数は乏しい。体力と意欲を兼ね備えた優秀な指導者がいれば、各球団がそう長いこと放ってはおかない。
日本シリーズで優勝経験があり、今は現場を離れている元監督といえば、上田利治、古葉竹識、森祇晶、権藤博、若松勉、伊東勤らの名を挙げることができる。とはいえ上田、古葉、森、権藤はすでに70代、現場を離れて10年以上経つ(古葉は大学野球部の監督だが)。今さらこの激務に担ぎ出すのはあまり現実的とは思えない。
若松や伊東は、私は面白いと思うが、各球団やスポンサー筋を納得させるには押し出しが弱いかもしれない(そんな要因を考慮しなければならないのも情けない話だが)。
第2に、現場感覚の有無というものがある。あるらしい。
たとえば選手の調子を判断する目、試合の勝負所をつかむ感覚といったものは、日々現場で戦っていないと、衰えたり狂ったりするものだという。私にははっきりとはわからないが、どんな仕事でも現場感覚というものは大事だ。野球の世界にもそれがあるだろうということは想像に難くない。
今週発売の週刊ベースボールではライターの木村公一が「韓国はなぜ金メダルに輝いたのか」という記事を書いているが、そこでは韓国代表の金卿文監督の手腕が高く評価され、その采配が際だった理由として「現職の監督だった」ことが指摘されている。監督もコーチ陣も全員が現職だったそうだ。
第3に、準備期間の不足がある。
「日本シリーズの優勝監督にする」「選考委員会を作る」という提案は、実行委員会で「時間がない」という理由で採用されなかったそうだが、現実には、誰がなったところで時間はない。実際に選手を招集して練習ができるのはおそらく2月中旬あたりから。それなら現役監督であっても大した違いはない(スタッフの招集を手際よくやれれば、という条件は伴うが。これは、監督以前に、しっかりしたGMを決めることの方が大事だろう)。
そんなわけで「日本一監督をWBC監督にする」という中日案はなかなかよいと思うのだが、私はこれをさらに進めて、「WBC日本代表チームは、今年の日本一球団を母体とする」ということにしたらどうかと思っている。
現役監督がWBC監督に就任する上で最大の障害は、監督がシーズン前にチームを離れることにある。WBCで世界一になった王監督は、その年、ソフトバンクを日本一にすることができなかった。
監督がチームを離れるのが問題になるのなら、チームの主要部分も監督にくっつけて一緒に行ってしまえばよい。前年の日本一チームなのだから、要所要所に優秀な選手はいるはずだ。外国人に頼っている部分や弱い部分を他球団の選手で補えば、代表にふさわしいチームができるだろう。監督も含めていつも一緒に試合をしている選手たちなのだから、意思の疎通にも問題はないはずだ。シーズンに向けた調整も同時にできる。外国人や非主力選手が分断されるという問題はあるが、なんなら練習相手として何人か帯同させてもいいかもしれない。
暴論だとお思いだろうか。
もちろん、本当に最強のチームを作るのなら、常勤の代表監督とスタッフを置き、各チームから選手を選りすぐってチームを編成するのが本来の姿だろう。
しかし、北京五輪に向けた日本代表のチーム作りを見ていると、そういうやり方では結局うまくいかないのではないかという懸念を覚える。テストや準備がほとんどできないからだ。
国内のプロリーグが進行する傍らで代表のチーム作りを進めなければならない、という点で、野球とサッカーは似ている。だが実際には、監督が準備のためにできることには大きな違いがある。
北京五輪のサッカー日本代表は、昨年暮れに出場を決めた後も、何度も代表合宿を行い、練習試合を行い、海外での国際大会にも参加した。代表監督はそこで新しい選手を試し、本大会には最終予選とはかなり異なるメンバーでチームを編成した(その結果がろくでもなかったというのは、また別の話)。
反町監督が選手を集めて合宿や海外遠征をしていた間、星野監督はチーム作りのために何ができたか。所属チームで練習し、試合をする選手たちを、ただ視察し、話すことだけだった。
7月に発表された代表チームには、「故障者が多い」「今季の成績を反映していない」「予選のメンバーに固執しすぎ」などの批判が浴びせられた。本番でも故障で満足に働けない選手が続出したため、この選手選考は敗因のひとつとして非難を受けている。
だが、私はこの点に関しては、あまり星野監督を責める気にはなれない。
(代表合宿を招集した段階で、本番に間に合わない選手の見極めは必要だったと思うが)
ある選手が国際試合で通用するか否かを予想するのは難しい。西岡のようにまるで平気な選手もいれば、青木や新井のように経験を積んで力が出せるようになった選手もいる。
北京では、予選不参加の西武の中島とGG佐藤が加わった。今季好調だったからだ。結果として、中島はそこそこ働き、佐藤は最後の2試合で日本を破滅に導いた1人となった。要するに、使ってみなければわからない。
だが星野監督に、彼らを実戦でテストする機会は与えられなかった。
とすれば、国際経験のない選手は、チームにとってある種のリスク要因となる。新顔が増えるほどリスクも増える。だから、「栗原を連れて行っておけば」という類の批判には、ほとんど意味がないと私は思う(小笠原、井端、和田一浩といった選手なら、成績やプレー以外で力になっただろうとは思うが)。
十分な準備やテストができないのなら、オールスター的選抜チームが機能するのは難しい。国内リーグの成績だけで編成された「最強チーム」は、絵に描いた餅に過ぎない。それなら、既成の強いチームをベースに代表を構成した方が、まだしも間違いがないのではないか。
こういう考え方は、実はほかの団体競技では珍しくない。
日本のバレーボールが強かった頃には、特定の実業団チームの監督が自チームに多少の補強をして国際大会に臨む、というやり方で成功をおさめていた。東京五輪で優勝した「東洋の魔女」は監督以下、日紡貝塚がベースだったし、70年代の女子代表もほとんど日立とユニチカだった。
サッカーでも似た例は多い。「トータルフットボール」と称えられる74年ワールドカップのオランダ代表は、アヤックスとフェイエノールトの混成チームだ。旧ソ連や現在のロシアも、特定クラブを中心に代表を編成することが多いように思う。
野球の日本代表が、数年に一度の特定大会のために一時的に結成され、しかもそのための準備期間が満足にとれない、という条件の下でしか活動できないのであれば、出来合いの強いチームをベースに結成するという手法は、検討に値する選択肢だと私は思う。
というわけで、次の実行委員会までの間に、中日球団はもう少し頑張ってロビイングをして、チームごとWBCに送り込むべく暗躍してもらいたい(って、中日が日本一になれるかどうかという問題もあるがそこはとりあえず措く)。
と、ここまで書いてきて、大きな要因を見落としていることに気がついた。
北京五輪とWBCでは、条件が大きく異なる。WBCにはMLB選手の出場が可能だ。
松坂、黒田、岡島、斉藤、城島、岩村、松井稼、松井秀、イチロー、福留。ほとんどのポジションで日本のナンバーワン選手はアメリカにいる。そうでなくても、WBC本大会はアメリカの球場とアメリカの審判で行われるのだから、同程度の力量ならMLB選手の方が有利だろう。
もし前回と異なり、彼らの大半が日本代表としてWBCに参加するのであれば、「日本一の監督とチームで参加」という形は成り立ちにくくなる。MLB組を主力に据え、NPB組は脇を固める、という形でオールスターチームを作るのがよいかもしれない(皮肉なことだが、この構造はシドニー五輪代表におけるプロ選手とアマ選手の関係に酷似することになる)。
これは要素レベルでいえば掛け値なしに日本の最強チームとなる。
ただし問題は、誰がそれを率いるのか、ということだ。
第1回WBCの日本代表は、イチローが王監督を深く尊敬していたからチームとして成立した。イチローほど気難しい選手がほかにいるかどうかは別として、この錚々たるメンバーが指導者として認め、彼らに同じ方向を向かせることのできる人物でなければ、このチームの監督を務めるのは難しい。
(極端な話、イチローは星野仙一を自分の監督として認めるだろうか。なかなか微妙な気はする)
さて、そうなると誰がいるのだろう。MLB監督としても相応の実績を残しているボビー・バレンタインあたりがいいのだろうか。
そういえば、MLB所属の日本人選手の全員から、掛け値なしに深く尊敬されている人物が1人、在野にいた。野茂英雄がベンチに入れば、彼らは文句なしにまとまるかもしれない。
だが、彼をベンチに従えることができたはずの人物は、すでにこの世にない。仰木彬が健在であったら…。
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