高代延博「WBCに愛があった。 」ゴマブックス

 今春の第2回WBCで三塁ベースコーチを務めた高代延博が大会を回顧した本。あとがき等を見ると、スポーツ・ヤアの元編集長、本郷陽一が関わっているようだ。

 第1回大会の後には2冊のドキュメンタリーが刊行されたが、いずれも取材者(石田雄太、石川保昌)の手によるものだったから、インサイダーによるWBC回顧録というのは初めてで、それだけで興味深い。三塁ベースコーチとして、日本代表の攻撃のすべてをグラウンドで体験してきた高代であれば、なおさらだ。

 刊行時の目で記したプロローグ、大会そのものについての考えを述べたエピローグを除くと、本書は著者が原代表監督から三塁コーチへのオファーの電話を受けた日に始まり、帰国便が成田空港に到着する場面で終わる。
 コーチ陣の編成が発表された時、私は、原と高代にどういうつながりがあるのだろうと訝しく思ったものだが、高代自身も同じような戸惑いを持っていたようだ。ジャイアンツとのプレーオフに敗れたその夜に、落合監督自身の口から翌年の構想に入っていないことを告げられ、その2日後、ナゴヤドームで荷物をまとめている最中に、携帯電話に原自身から連絡があった。
 意欲はあるものの、WBCに参加すれば、そのシーズンはもうコーチとしての仕事はない。生活のためには他球団に就職した方がよいのではないか、と迷った高代は、率直に事情を話して返答を保留するが、プレーオフが終わるような時期には、すでにどこの球団も監督・コーチ人事は完了していた。原の誠意、妻の勧めにも推されて、高代はコーチを引き受ける。
 …というような、わりとなまなましい内情が、坦々と記されていく。首脳陣の顔合わせ、選手選考*と、大会に向けた準備が進み、そして合宿へと向かっていく。

 面白いのは首脳陣の人間関係における高代の立場だ。
 もちろん高代のコーチとしての手腕は評価され、仕事の上では尊重されていたのだろうが、高代は人間関係の上ではまるで外様なのだ。この大会限りのプロジェクトチームとして集められたコーチ陣とはいえ、それぞれに既存の関係はある。王顧問、原監督、篠塚・緒方コーチというジャイアンツ人脈が中心にあり、投手コーチの山田、与田は職掌上は専門外。
 そのため、仕事を離れた場面では一人で過ごすことが多かったようで(酒を飲まないコーチが多かったせいもあるらしい。高代自身は飲む人なので)、本書では、合宿や遠征生活の中で一人で夕食に出かける場面がたびたび出てくる。というより、監督主催などの食事会以外では、スタッフと行動をともにする場面がほとんどない(選手とは食事をしないのがポリシーらしい)。食事会で王顧問の隣に座るたびに緊張しているのもおかしい。
 別にそれがトラブルや不和の存在を示唆しているというのではなく、プロジェクトチームの成り立ち方というのはそんなものだろうな、とも思う。いい大人が1か月以上も集団生活を送るのだ。よほど気心の知れた相手でなければ、四六時中一緒にいたのでは疲れてしまうことだろう。何気ない場面だけれども、こういう描写にリアリティを感じる。
 
 宮崎での合宿、そして大会がスタートすると、今度は三塁ベースコーチとしての高代の眼と腕が前面に出てくる。これも本書の肝だ。
 どの試合のどの場面で、どの走者のスタートが遅れたことがどういう結果をもたらしたか。どうすれば自分は失敗を防げたのか。ある局面で本塁突入を指示し、別の局面で止めたのはなぜか。相手外野手の肩をどう評価していたか。テレビで見ているだけではなかなか判らない(いや、球場で見ていても判るとは限らない)、微妙なプレーと判断の機微が、試合の行方を左右していく。まさに「三塁コーチが見た侍JAPAN」(サブタイトルの一部)である。高代が書く三塁コーチ論をぜひ読んでみたい、と思わせる。ま、ご本人はまだまだコーチとして仕事を続ける意欲たっぷりだろうから、本当に肝心なことが書けるのはずっと先になるのかも知れないが。

 高代にはもうひとつ、守備コーチとしての仕事もあった。
 合宿に集まった内野手たちからアドバイスを乞われて、それぞれに対して課題とその解決方法を教える場面は圧巻といってよいが、白眉は何といっても村田への指導だろう。

 WBCを見ていて驚いたことのひとつが村田の守備だった。決して上手ではなく、そもそも本人がまともに意欲を持っていなかったことは確実(昨年末のテレビ番組で、広島の東出から「広島遠征では毎晩焼き肉屋に通っているから、3連戦の3日目あたりには明らかに守備の動きが悪い」と指摘されて、「今は食べたいものを腹いっぱい食べたい」と居直っていた)だった村田が、厳しい打球に飛びついて、しばしば危機を救っていた。本書では、原監督と高代が、村田の意識を変えて練習に取り組んでいく様子も記されている(横浜の指導者はこれまで何を教えてたんだろう、という気もしないでもないが。こういうことをきちんとさせられないのが弱いチームなのだろうな)。
 
 高代のノックの巧さが、USAで行われた第2ラウンド以降、現地のメディアに絶賛されていたという話は、大会当時も話題になっていた。本書でもその件が紹介されている。練習試合を行ったサンフランシスコ・ジャイアンツのベンチコーチが、守備理論を聞くために高代を訪ねてきた場面も興味深い。ベテランのベンチコーチを感服させる高代も見事だし、日本人にわざわざ教えを乞うコーチも立派だ。

 もちろん、ひとり高代だけでなく、原監督をはじめ伊東、山田、篠塚ら、それぞれのコーチに、それぞれのWBC物語があることだろう。彼らのような指導者がチームを支えていたこと、そもそも高代のような指導者がいること自体が、日本野球の強みなのだろうと思う。
 高代は法大ー東芝と進んだ後にドラフト1位で日本ハムに入団、日本ハムで10年、広島で1年の現役生活を過ごして引退。そのまま広島でコーチ生活に入り、90年から昨年まで19年間コーチ業をしてきた。現役時代から守備と走塁に定評のある内野手だったから、もともとそれらの技術については思考と実践を重ねていたのだろうが、人に教えるとなればまた別だ。
 本書は、優れたコーチとなった高代の仕事ぶりをWBCという特殊な大会を通じて描いたものだが、そこに至る過程、彼がいかにして優れたコーチとなったかについても興味が湧いてくる。
  
 
*
亀井義行の選考については、本書によれば高代自身が推挙したという(昨年末にテレビ番組に出演して、亀井の守備を高く評価したこともあった)。このblogで議論になったこともあるので、該当部分を引用しておく。

<問題は、外野の守備がための選手の是非だった。
 外野担当の緒方コーチも、そこは決めかねていたようで「例えば逃げ切りたいときに、どうしますか? 青木、イチローに代打はないですよね。福留に代打はあるかもしれません。その場合、守りはどうしましょうか」と全員に問題提起した。
 私は「亀井義行はどうか」と推薦した。
 色眼鏡で見られる巨人の選手、しかも実績には欠ける。だから、原監督や緒方ら巨人のスタッフにしてみれば、自分のチームの選手を推しにくかったのかもしれない。しかし、私は、敵チームである中日の三塁コーチャーズボックスに立っていて亀井は嫌な外野手の一人だった。肩と、打球を処理してからの動作の速さに関して言えば、全盛期の高橋由伸にもヒケを取らないレベルにあると感じていた。
 最終メンバーまで亀井が入ったことに「巨人だから選ばれた」という批判があったみたいだが、内情は違う。これは亀井の名誉のためにも特記しておきたいと思う。>

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終わりよければすべてよし(増補版)。

 昨日は中身のないエントリを大勢ご覧いただいたようで失礼しました。

 普段の私なら、試合が終わったところで、何か落ち着き払って恰好つけた文章を書こうとするのだろうが、昨日ばかりは何も湧いてこなかった。ただただへたりこんで言葉がない、そんな心境だった。
 試合前は、また韓国とかよ、もう見飽きたよ、という気持ちもあったはずだが、試合が進むにつれてどんどん前のめりになっていった。そんな人はたぶん日本中に大勢いたのではないかと思う。いいことも悪いこともあったが、決勝戦にふさわしい立派な試合だった。

 ともあれ日本は再びワールドベースボールクラシックの頂点に立った。
 アメリカに敗れ、韓国に1勝2敗と負け越した前回は、レギュレーションに救われた面があったことは否めない。
 だが、今回は違う。韓国には3勝2敗、キューバに2勝無敗、USAに1勝無敗。五輪で優勝経験があり、昨年の北京五輪で日本を上回る成績を残した3か国にすべて勝ち越している。何の瑕疵もない、堂々たる優勝だ。それが嬉しい。

(またしてもドミニカとやれなかったのは残念だが、一次ラウンドであっちが消えてしまったのだからどうしようもない。ちなみに韓国は今回、キューバともUSAともやらずに決勝に進んだ。別に彼らのせいではないが、幸運だったとは言えそうだ)


 試合が終わった後は、そのまま夜中まで仕事をしていて、帰宅が夜のスポーツニュースにも間に合わなかったので、試合後のインタビューで監督や選手たちが何を喋っていたのかはよく知らない(あの雰囲気は好きなので残念だ)。
 ただ、グラウンドでイチローが受けていたインタビューだけはテレビの前で聞いていた。同点の延長10回、二死一、三塁で打席に入った時の心境を聞かれて、彼はこんなことを話していた。

<日本からの視線が凄いことになってるだろうなと、自分の中で実況しながら打席に入って、そういう時は結果が出ないものなんですが、ひとつ壁を越えたな、と>
<球場に来てくれた皆さん、日本で見ていてくれた皆さん、すべての人に、ありがとうと言いたい>

 このblogに長く付き合ってくださっている方は、4年前の3月に書いた<イチローは視線に脅えている。>というエントリをご記憶かと思う。当時、文芸春秋に掲載されたインタビューの中で、彼は<日本からの目というのは脅威ですよ>と繰り返し語っていた。その後、第1回WBCの経験なども加わってか、だいぶディフェンスの鎧を緩めた印象はあるものの、基本姿勢は大きくは変わっていない。

 そんな面からイチローを見続けてきた者にとって、この談話には感慨深いものがあった。大袈裟に言えば、あの打席こそ、彼が視線恐怖症を克服した瞬間だったのかも知れない。

 レギュラーシーズンが始まれば、彼は再び日本のメディアに追い回されることになる。昨シーズンにやり残した「張本勲の通算安打数3085本を抜く」という局面がすぐに訪れるからだ。差は2本だから、開幕戦から期待が集まるだろう。
 彼がそこをすんなりと乗り越えられるようであれば、今シーズンの彼のプレーは、かなり楽しみなものになる。

 そして、就任前から大会中までとやかく言われ続けた原監督。
 試合中の采配は、必ずしも最良の選択ばかりをしてきたとは言えない。決勝戦でも残塁の山を築き、原自身が<うまい監督さんならもう少したくさん点を取れたでしょう>と認めている。

 試合中の作戦はもちろん大事だ。だが、監督の仕事はそれだけではない。
 大会中、前の試合から先発メンバーを入れ替えたケースで活躍した選手は多かった。野手では、スタートは悪くとも大会中に調子を上げていった選手は何人もいたし、途中で著しく調子を崩した選手はいなかった。
 13人連れていった投手のうち、まったく使えなかった投手は1人もいなかったし、<本来は僕がいる場所じゃないが、球児さんが心の持ち方をアドバイスしてくれた>という決勝戦後のダルビッシュの言葉に見るように、選手同士が助け合うチームになっていた。

 原が具体的に何をしたのかは知らない。投手陣については山田・与田両コーチに負うところも大きかったに違いない。
 だが、監督は結果のすべてに責任を負う立場である以上、評価もまた結果によって下されるべきだ。

 原監督は素晴らしいチームをまとめて世界一に導いた。
 それがただひとつの結果だ。誰にも覆せない。

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終わりよければすべてよし。

 原監督、スタッフ、選手たち。結果の出せなかった選手も含めて、みんなよく戦った。
 今度こそ瑕疵のない世界一だ。おめでとう!

 今はそれ以上言うことがありません。続きは後ほど。さ、仕事しなきゃ(笑)。

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チルドレンが巣立つとき。

 イチローチルドレンという言葉があった。
 2006年に開かれた第1回WBCでのことだ。川崎、西岡、青木。今江も入っていたかどうか。彼らが野球少年だった頃、すでにイチローは史上初のシーズン200安打を達成したスーパースターだった。イチローに憧れて育った彼らがプロ入りし、一軍の試合に出るようになった時には、すでにイチローは海の向こうの人だった。
 その憧れのヒーローと同じチームで野球ができる喜びに溢れた彼らは、生まれたてのアヒルが母の背中にくっついて歩くがごとく、いつもイチローにくっついて歩いていた(らしい)。そんな彼らをメディアがイチローチルドレンと名付けた。

 年齢差は10歳もないのになぜチルドレンか、と今になれば違和感を抱くが、当時は、その半年前の“郵政民営化選挙”で衆議院に大量当選した新人議員たちが「小泉チルドレン」と呼ばれて政界の一大勢力をなしていた頃だったから、そこから命名されたのだろうと容易に想像はつく。
 政界のチルドレンの多くはその後、庇護者を失って迷走を続けているが、野球界のチルドレンは、憧れのイチローと成し遂げた世界一の勲章もきっかけと励みになったのだろう、以後もそれぞれに成長し続けている。
 
 
 
 世界大会なのにどうして同じ相手とばかり何度も試合をしなければならないのかとか、ラウンドの初戦を勝ってもあんまり有利にならないのが釈然としないとか、ラウンドの最終戦は常に順位決定のためだけに行われるので気合の持っていきどころに困るとか、試合をするたびにダブルエリミネーション方式に翻弄されながらも(といってもこれは全部見てる側の感想で、やってる選手はまた違うのかも知れないが)、日本代表は第2ラウンドでキューバを再び倒し、どうにかベスト4の一角にまでたどり着いた。

 6試合で4勝2敗。日本をここまで導いた最大の要因は間違いなく安定した投手力だ。
 一方で、事前報道では絶対的なリーダーであるかのように扱われていた(そして彼自身もそのように振る舞っていた)イチローが極端な不振に陥っている。韓国との2試合はいずれもそこそこ走者は出るものの、進められず還せず、ひとたび先制を許すと、その重苦しい雰囲気のまま、ずるずると押し切られてしまう。そんな負け方だった。圧倒されたというわけではないだけに、一番打者の不振の影響は大きいように思える。このまま日本が大会から消えれば、戦犯扱いされることは避けられなかっただろうし、彼自身も大会前から、勝ち負けに責任を持つべき立場の人物がするように振る舞っていたのだから、そういう思いはあっただろう。
 春先はさほど打率が上がらないのが常とはいえ、イチローがここまで打てない姿は見た記憶がない。日本ラウンドでは不振だったものの、アメリカに渡って初戦のアメリカ戦の第一打席でいきなりホームランを放ち、以後はチームを牽引した前回大会とはかなり様相が異なっている。

 そして、チルドレンの3人もまた、3年前とは違う春を過ごしつつある。
 二塁手のレギュラーとして活躍した西岡は、そもそもこのチームに選ばれず、千葉ロッテの一員としてシーズンに備えている。二塁の岩村、遊撃の中島がそれぞれ相応の結果を出しており、今のところ西岡不在を穴とは感じさせない。ただ、手足が縮こまったような野球をしてしまった韓国との2試合では、よい意味で空気を読まない西岡の存在が突破口になったかも、と感じさせなくもない。

 西岡と二遊間コンビを組んで、やはりレギュラーだった川崎は、今大会では主にベンチに座っている。彼が守れる遊撃と三塁では、中島と村田がそれぞれにいい仕事をしているから、控えに回るのもやむなしとはいえる。ただ、渡米後の発熱で中島が欠場した時、代わってスタメン起用されたのは、西武では二塁を守る片岡だった。いかに足が速いとはいえ、川崎だって盗塁王経験者だ。屈辱的ともいうべき起用(正確には不起用)にもかかわらず、川崎はベンチの中できわめて高いテンションを保ち、守備から帰ってくる選手たちを迎えたり、イチローのキャッチボール相手を務めている。持ち味は違うけれど、彼なりに、前回大会で宮本慎也が果たしていたような役割をしようとしている。

 そして、まぎれもなく今大会の日本打線の中心にいるのが青木だ。ほかの打者が打ちあぐむ投手を攻略し、安打を重ね、好機ではランナーを還している。
 前回大会の彼は、前年にイチロー以来の200安打を記録したとはいえ、まだ売り出し中の若手だった。控えとしてベンチに座ることが多く、先発に起用された試合でもよい結果を出せなかった。優勝はしたけれど、充実感は物足りなかったのではないかと思う。その後の3年間、彼はレギュラーシーズンで好成績を続けた。北京五輪の予選と本大会にも出場し、今度は活躍した。そして今、少なくとも最初の6試合で、青木は誰よりも見事な打棒を見せている。
 
 
 3年前は、イチローに憧れ、仰ぎ見て、背中からついていくばかりだった若者たちが、今はその“父”の不振を補っている。イチローが打てなくても、青木が打つ。イチローは黙っていても、川崎がチームを鼓舞する。
 そして、彼らの少し上の世代である村田は、試合に出ているうちにだんだんと4番打者らしくなっていき、少し下である中島は、北京五輪に続き、緊張を感じさせないプレーを見せている。そんな彼らを見ながら、片岡や内川が緊張しつつも相応の結果を出している。
 下位をがっちりと固めている城島や岩村に支えられ(福留はもう少し打ってもいいと思うが)、20代半ばの中堅選手たちが苦しみながら戦って、日本は勝ち上がってきた。
 イチローがダメでも周囲がカバーして得点を挙げ、準決勝まで勝ち上がったということ自体が、この大会の最大の成果であるように私には感じられる。
(投手陣も見事だが、こちらはもともと評価が高いので)

 第1回大会で打線を牽引したイチローにしても松中にしても、今から見ればキャリアのピークにあった時期だ(これからまた上昇する可能性は否定しないけれども)。
 一方、今大会で上位打線を打つ彼らは、まだまだ成長途上にある。年齢的にはベテランに近づきつつある村田にしても、伸びしろはありそうだ。
 そういう選手たちが、この大会を足がかりに、さらに飛躍してくれるのなら、日本野球にとってこれほど嬉しいことはない(西岡や今江においては、出られなかったことを足がかりに。サッカーの世界では、あるワールドカップに選ばれそうで選ばれなかった選手が、次のワールドカップでチームの中心にいる、という事態はしばしば起こる)。

 と同時に、次の五輪で野球が採用されず、日本代表が真剣にタイトルを争う大会が4年後までこないことを考えれば、そこで主力となるであろう世代の選手たちが中心となって勝ち上がってきたことの意味はとても大きいと思う。
(今大会で活躍している20代の選手のほぼ全員が北京五輪経験者だというのは偶然ではないのではないか)
 イチローが額面通りに打ちまくって勝ち進むことよりも、ここまでの現実の方が、はるかに価値が高いと私は思っている。


 仰ぎ見ていたイチローの背中に、チルドレンと呼ばれた選手たちは、着実に近づいている。いつかは父を乗り越えなければならないのが子供の宿命だ。彼らの目に、イチローの背中は、間違いなく3年前とは違った見え方をしているに違いない。

 そして、あとは「父」が意地を見せてくれれば、もう何も言うことはない。
 イチローは、プロ入りして一軍で試合に出るようになってこのかた、「自分が打ってチームが勝つ」「自分は打つけどチームが勝てない」という状況は何度も経験してきたはずだが、「自分は打てないけど周囲が頑張ってチームが勝つ」というのは35歳にして初めての体験ではなかろうか。
 この事態を彼がどのように消化していくかは興味深い。過剰な自意識から解放され、「みんなのおかげでここまで来られた」というような言葉を口にすることができるようになった時、彼はまたひとつ違うステージに立てるのではないかという気もしている。もっとも、そんな期待をすることは、天才を凡人のステージに引きずり下ろすような類いの過ちなのかも知れないが。
 

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完全なるホーム。

 イチローがライト前に彼自身の大会初安打を放つと、スタンドの観客の半分くらいが立ち上がった。
 というのはたぶん私の錯覚で、実際には2割か3割くらいだったかもしれない。だが、そもそもイチローが登場してきた時点から、場内の空気は異様なほど高揚していた。

 試合開始直後の一回表。冷静に考えれば、単なる無死一塁だ。試合の先頭打者を出塁させてしまうことは、先発投手にとって、よい状況ではないけれど、とりたてて珍しい状況でもない。韓国の先発投手、キム・グァンヒョンだって経験はあるはずだ。
 だが、今夜のそれは、キムにとって絶対絶命のピンチのように感じられたのではないだろうか。今夜の東京ドームは、それほどの雰囲気、それほどの圧力だった。
 だから、続く中島の安打、青木の先制打、そして大会初登場の内川が三塁線を抜いたタイムリー二塁打は、観客の後押しによって生まれたといっても過言ではないと私は思っている。その後も積み重ねた計14本の安打と14の得点のすべても。

 村田は試合後のお立ち台で「野球選手として幸せです」と話していたが、それはそうだろう。本塁打を打った次の打席からの村田への声援はイチローに次ぐものだった。彼のプロ野球人生で、スタンドのほぼ全方位が自分を応援しているという体験は、空前のものだったに違いない。

 3年前の第1回大会の時にこのブログを訪れていた方は、東京ラウンドの終了時に、私が観客席のヌルさ加減を批判するような文章を書いたことをご記憶かも知れない。スタンドが埋まったのは韓国との試合だけだったし、その韓国戦では、日本での試合にもかかわらず、韓国側の応援に圧されていた。

 だから今夜、東京ドームで自分の席について満員のスタンドを眺めた時には驚いた(中国戦がほぼ満席だったことにも驚いたが)。韓国の応援団は左中間にこぢんまりと集まり、あとは三塁側に数カ所の島があるだけ。あのカンカンと甲高い音を立てる棒状の風船を両手に持った韓国サポーターは、全部で1000人もいなかったのではないかと思う。

 東京ドームのスタンドは、一周360度のうち350度くらいまでが日本を後押ししていた。集まった人たちは、見物ではなく応援に来ていた。ライトスタンドの応援団のリードに応じて、多くの観客が声を挙げ、手を叩いた。これほどの大差にもかかわらず、試合終了まで席を立つ人はごく少数だった。それどころか、ほとんどの観客が、試合後のヒーローインタビューまで残っていた。
 今夜の東京ドームは、これ以上ない、完全な日本のホームだった。3年前とはまったく違う。第1回大会に優勝したことの意義を、改めて実感した(もちろん北京五輪での経験も影響しているのだろうけれど)。

 2003年に行われたアテネ五輪予選以来、日本が国際大会のアジアラウンド(または予選)を戦うシリーズを現地で観戦し続けて4大会目になるが、これほどひとつになったスタンドを初めて経験した。それが嬉しい。
 
 原監督にはイチローを三番に置く構想もあったようだが、日本での試合では一番に置いて正解だったと思う。イチローが出てきた時の盛り上がりには異様なものがある。相手チームの先発投手は、最も神経をつかうであろう初回の第一球から、いきなり大ピンチのような気分に追い込まれるのだ。これほどやりづらい状況はない。
 イチローが打席に立つ時、観客がシャッターを押すカメラのストロボが、スタンドをまるでスパンコールのような状態にする。私はできるだけ発光を控えてほしいという立場をとっているけれど(写真撮ってもいいけど発光しない設定にはできるはずだ)、現実にはイチローの打ちづらさ以上に、相手投手が投げづらいんじゃないかとは思う。


 このような状況を韓国サイドから見れば、2大会続けてアジアラウンドを日本でやることは、理不尽に思えるかも知れない。前回大会では日本に2勝1敗だったし、別の大会とはいえ北京五輪では優勝しているのだから、もっと尊重されるべきだ、と彼らが考えたとしてもおかしくはない。
 WBCは、わけのわからないうちにレギュレーションが決まっていることが多く、日本ではMLBを批判する声が強い大会だが(もちろん正当な批判だけれども)、この点においては、日本代表は「わけのわからないうちに決まるレギュレーション」のメリットを大いに享受している、ともいえる。


 この勝利で日本は2次ラウンドへの進出を決めた。
 アジアラウンドはまだ1試合残っているから、チーム状態について軽々しいことは言えないが、よほどのことがない限り、アメリカでの2次ラウンドに落ち着いて入ることができるだろう。
 この2試合で石原捕手を除く野手全員が何らかの形で出場し、投手も岩隈、内海、小松を除いた10人が登板して、まずまずの内容の投球をした。当たりの出ていない打者が何人かいるものの、打線につながりが生まれ、ほぼ全員がゲームに入った状態で次に進めるのは、よい傾向だ。第1回大会のレギュラーだった川崎が、ベンチにいながらも懸命に盛り上げているのがよくわかる。

 スタンドはひとつになった。チームもおそらく、その方向に進んでいる。

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どのクラスにも1人はいそうな、厄介なタイプ。

 今回は全編例え話。舞台は高校にしましょうか……


 クラスの中で、学級委員を決める日が近づいている。

 委員に選ばれることは、一応は名誉だ。楽しいことがあるかも知れないが、面倒くさくもある。何かうまくいかないと、すぐ先生にしかられる。あるクラスでは、なりたい人どうしで競争が起こるし、別のクラスでは、みんな嫌がって押しつけあっている。
 あなたのクラスでは、いろんな意見が出て話がまとまらず、立候補者も出ない。全体のホームルームで決めるのは難しそうなので、先生と、前任者など数人の会議で選ぶことになった。

 で、ある人物がいる。N君、としようか。
 N君は、成績は抜群によいのだが、いつも一言多い。他人への愚痴や批判ばかり喋っているので、クラスのみんなは彼に一目置きながらも、煙たがっている。でも、他のクラスでは人気がある。やり玉に挙がるのはN君のクラスメートだけだから、他人の悪口を聞いているだけなら、そりゃあ面白いだろう。

 N君は学級委員の経験はないが、先生の指名で選考会議に出席することになった。
 N君はなんとなくはしゃいでいる感じだ。会議の何日も前から「あいつがいいよ」とか「やっぱりこいつがいい」とか、はたまた、ある意見を言った人気者について「そんなこと言うなら自分でやればいい」とか、みんなの集まる場所で、いろんな人の名前を挙げる。
 「N君がいいよ」と言われると、「俺なんか…」と尻込みするが、表情は嬉しそうだ。内心やりたくて仕方ないのが周囲からはみえみえだが、決して自分の口からは「やりたい」と言わない。

 最初の会議が別室で行われ、終わってからN君が教室に帰ってきた。
 見るからに機嫌が悪い。会議では前任者を推す意見が強かったようで、「出来レースじゃないのか」と苦々しい口調で言う。N君は?と聞かれると「Nの字も出ないよ」とぶすっとした表情。自分が推薦されるものだと思っていたようだ。他のクラスに行くと「N君しかいないよ」と言われるものだから、すっかりその気になっていたのかも知れない。

 二度目の会議では、「N君はどう?」とちょっと水を向けられもしたけれど、N君は「いいですよ」と断ったらしい。結局、先生の意向もあったのか、学級委員は未経験のH君に決まった。H君は成績はN君ほどではないが、素直な性格。すぐに引き受けて「学級委員はクラスの誇りで憧れです」なんてくさいことを真顔で言っている。
 N君は、会議の後では「異論はないよ」と言っていたけれど、後で他のクラスの連中に囲まれると、「当然俺の名前が出ると思ったのに」「どうせ俺なんか先生に嫌われてるんだよ」と、また愚痴ばかり言っている。以前、自分でH君の名前を挙げたことなど、忘れてしまったようだ。

 学級委員になったH君は、スタッフを決めて活動を始めた。もうすぐ全校集会があって、H君と委員たちはクラスを代表して発表することになる。発表には順位をつけられるから真剣だ。
 他のクラスには、ずっと前から委員とスタッフを固定して準備をしてきたところもあるし、優秀な生徒ばかりを集めた強力なクラスもある。集会で上位に入ると試験が免除になるとはりきっているクラスもある。
 が、H君たちのクラスでは、先生はあまり優遇してくれない。集会のすぐ後に試験があるけれど、H君たちは試験勉強を休んで発表の準備をしている。

 そんなH君たちを横目で見ながら、N君は着々と試験勉強に励んでいるわけだが、集会の直前になって、また文句を言い始めた。「あいつをスタッフから外すなんておかしい。俺が推したせいじゃないのか」とか、「あいつは発表の本質をわかってない」とか…。
 他のクラスの連中は、そんなN君の繰り言を面白がって、書きだして壁に張り出したりしている。H君は何も言わないけれど…。

 ……私の目には、彼の振る舞いはそんなふうに見える。「彼」が誰かは、書くまでもないでしょう(笑)。
いい加減、口を閉じてくれないかなあ。若い後輩の足を引っ張って、ホントに大人げない。

 N君が最初から「僕は学級委員になりたい。僕なら発表も成功してみせる。みんな協力してくれ」と言っていたなら、私はこんなふうには思わないけれど、たぶん彼はそんなことが言える性格ではないのだろうな。
 
 
※アップから30分後くらいに、結語を変更しました。当初はもうちょっと嫌味な表現だったのですが、それもどうかな、と思いまして。

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WBC日本代表候補発表に思う2、3の事柄。

 もう2日前になるが、12/15にWBC日本代表の候補選手が発表された。顔触れは以下の通り。

 【投手】岸孝之(西武)、涌井秀章(同)、小松聖(オリックス)、ダルビッシュ有(日本ハム)、渡辺俊介(ロッテ)、田中将大(楽天)、岩隈久志(同)、馬原孝浩(ソフトバンク)、和田毅(同)、杉内俊哉(同)、内海哲也(巨人)、山口鉄也(同)、藤川球児(阪神)、松坂大輔(レッドソックス)、黒田博樹(ドジャース)、斎藤隆(元ドジャース)

 【捕手】細川亨(西武)、阿部慎之助(巨人)、石原慶幸(広島)、城島健司(マリナーズ)

 【内野手】中島裕之(西武)、片岡易之(同)、松中信彦(ソフトバンク)、川崎宗則(同)、小笠原道大(巨人)、栗原健太(広島)、村田修一(横浜)、岩村明憲(レイズ)

 【外野手】稲葉篤紀(日本ハム)、亀井義行(巨人)、青木宣親(ヤクルト)、内川聖一(横浜)、イチロー(マリナーズ)、福留孝介(カブス)

(生年月日、利き腕も含めたリストは公式サイトに)


 この日には候補者45人が発表されると予告されていたが、蓋を開けてみたら34人だった。原監督の意向らしい。このメンバーで来年2/15から合宿に入り、最終的には28人に絞って大会入りするという(故障などのアクシデントによる多少の入れ替えはあるだろうが)。
 要するに、この34人は「日本代表候補合宿メンバー」ということになる。賢明な判断だと思う。

 北京五輪でも6月ごろだったと思うが、1次候補と称して60人くらいのリストが公表されたが、何の意味があるのかわからなかった。
 それでも北京五輪の時はシーズン中だったから、選手たちはコンディションを整えるまでもない。発表されたところで何か準備をしなければならないということもなかっただろうが(パスポートの用意くらいはしたかも知れないが)、今度はオフを挟むので調整の仕方が変わってくる。候補と言われてオフ返上で準備したあげくに合宿にも呼ばれない、では外れた選手も不快だろう。「選手たちは3月初めの本番に向け、覚悟を持って例年より前倒しで調整して来る。門戸を広げるのは決していい方向とは思わない」というコメントを見ると、選手サイドから見て意味不明なことはやりたくない、と原監督は考えたようだ。

 実際、ほとんど実害のなかったはずの今回でも、不快感を表明する人はいる。松井稼頭央の事務所の人が怒っている、とサンスポが報じている。

< 「落選理由も選考の説明も何もない。手紙で(この日発表された)34人に入っていない、と書かれていただけ。あまりに冷たいやり方です」
 松井稼の所属事務所「クロス・ビー」の代表取締役、神崎実氏が語気を強めた。今月8日、原監督は暫定候補44選手に共闘への士気を高める手紙を送った。松井稼のもとにも届いたが、34選手から漏れたことに関しては「45人には入るが、そこから絞った34人には入っていない」と書かれていただけだったという。
 松井稼は今季、3度の故障者リスト(DL)入り。DLに45日以上入った選手がWBCに出場するには所属球団の許可が必要だが、松井稼サイドはアストロズに許可を求め、快諾を得ていた。
 一方、NPB(日本プロ野球組織)側からは協力を求める連絡が何度もあり、松井稼も「喜んで協力します」と答えていたが…。「選手へのリスペクト(尊敬)が感じられない。せめて説明が欲しかった」と神崎氏。発表以前の段階での対応に不信感を募らせた。>

 球団に許可まで取ったのに…という点で同情はできる。ただし、日本代表というのはそんなに監督が選手に気を使って頭を下げて参加してもらうようなものなのだろうか、という気もしないでもない。記者会見で落選を知ったというのならともかく、事前に「選ばれない」という連絡が書面でなされていることは記事中でも明らかだ。*

 ともかく、外された選手から不満の声が上がるのは仕方ないし、避けられない。このタイミングですら、選手を絞り込めばこういう反応が(メディアも含めて)出てくる。大会直前の2月にそれをやればチームに悪影響を及ぼしかねない。トラブルの種を早めに片づけたという点でも、34人まで絞ったことは評価できる。


 顔触れそのものについていえば、不在が気になったのは西岡剛だ。

 松井稼頭央は、私の感覚では「選ばれてスタメンで出場してもおかしくはないが、選ばれなくてもおかしくはない」という位置の人だ(サンスポの上の記事では<“正遊撃手”が、まさかの落選だ。>と書いているが何の根拠があるのか)。
 上の顔触れを見てもわかるように、彼とポジションが重なる優秀な選手は国内にも大勢いる。野球が五輪競技から外れた今、日本代表が国際大会に真剣に臨む機会が4年に1度のWBCしかない、という状況を考えると、力量に大差がなければ、次回大会にも出場できそうな選手を優先するという判断は納得できる。ベンチにいて貢献できるベテランなら選ぶ価値もあるが、松井稼はそういうタイプでもなさそうだし。

 一方、西岡はまだ24歳と若く、しかも第1回WBC、北京五輪と2度の国際大会を経験し、活躍した実績もある。やってみなければ普段の実力が発揮できるかどうかわからない国際試合において、戦力として計算の立つ貴重な選手だ。今季の成績も悪くない。大きな故障もない。落選の報に本人がとてもがっかりしたコメントを出しているので**、意欲もコンディションも問題なかったと思われる。川崎と並んで代表チームを背負っていく選手だと思っていたので、どういう判断なのかは気になる。

 年齢でいうと、70年生まれの斎藤隆が最年長で、72年の稲葉が続く。そして、1歳違いの73年にイチローがいる。イチローも35歳だ。野手陣では年齢、実績、その他含めてあらゆる面で最上級ということになる。今回は宮本キャプテンもいないので名実ともにリーダー格にならざるを得ないが、幸い、同学年に松中と小笠原もいる。このへんが核になっていけばチームはおのずとまとまるのではないかと思う。

 戦力面での感想はいつも通りだ(笑)。
 捕手陣の中でのサポート役、野手における控えのスペシャリスト、投手陣におけるセットアッパー問題が気になる。

 左の中継ぎが山口しかいないのはいささか不安。岡島をなぜ選ばなかったか、というのも(古巣ジャイアンツに対しては屈託がありそうなだけに)気になるところ。先発も中継ぎもやってきた武田勝(日本ハム)あたりも候補に入っていてよさそうなものだが。
 ただ、WBCでは投球数制限があるので、前回も2番手投手は「第2先発」のような形で投入されていた。つまり1試合で先発投手を2人使うわけだから、先発投手が多くなるのは必然でもある。北京五輪とはレギュレーションが違うので、おのずと構成も異なる。

 捕手は城島と阿部が同時に選ばれるという、かつてない高いレベルでの均衡となった。城島は右打者、阿部は左打者なので監督は併用を考えているかも知れない(MLB所属選手は城島が、アジアとキューバの選手は阿部が、それぞれ対戦経験をもっているという点でも相互補完的だ)。
 野手陣は、ここ一番で代打でバントを決められそうな選手が見あたらないのが気になる。外野は左打者が多いので、あえて亀井を抜擢する理由も思いつかない。田口壮を招いた方がチームの戦力は向上するだろう。ジャイアンツの若手に国際経験を積ませたい、というのなら(その枠が許されるかどうかは別として(笑))、実はあまり若くない亀井よりも坂本の方がいいんじゃないか。

 というわけで、岡島、西岡、田口あたりが欠落しているように感じるのだが、最終メンバーはここからさらに絞られる。前回大会でも、当初メンバーには含まれていなかった宮本と福留が大きな役割を果たした。本番まで3か月、まだいろんなことが起こるだろう。3月の時点で最高のチームで大会に臨めるように祈るばかりだ。
 
 
*
 そもそもこの記事を読んだ最初の感想は、「神崎って誰?」だった。MLB球団との契約における代理人ではないだろうから、松井のそれ以外のビジネスをマネジメントする会社なのだろうが、サンスポの「所属事務所」という表現に違和感がある。野球選手が所属するのは野球チームだけでしょ(それも厳密には個人事業主として契約しているに過ぎない)。
ビジネスマネジメントの立場から、クライアントの商品価値を傷つけられたことに怒り、回復を図ってこんな記事を書かせたのかも知れないが、松井本人ならともかく、事務所の人が感情的になってどうする。本人をかばったつもりなのかも知れないが、この記事はむしろ彼のクライアントの商品価値をさらに下げている気がする。少なくとも私は、この人を通さないと松井稼頭央に取材ができないのなら、あまりやる気がしないなあ、という気分になった。

**
<「この大会を目標にしてきたし自分の中では出るつもりでいたので本当にショックです。気持ちを切り替えて09年のシーズンにこの悔しさをぶつけたい」>(日刊スポーツ)
 西岡には「出るつもりでいたので本当にショック」と言うだけの実績がある。しかも監督に対する恨み言は混ざっていない。記事を読んだ人は誰もが西岡に共感し好意を持つに違いない。こういう状況で選手が発する声明としては非の打ち所がない。
 松井の事務所の人は、こういう時に何を言えばよいのかを選手にアドバイスする立場の人だと思うのだが。

追記(2009.2.26)
上記34人のうち、黒田博樹、斎藤隆が調整上の理由などで辞退。岩田稔(阪神)が追加招集され、33人で2/16に宮崎で合宿入りした。合宿中に故障離脱者はなく、最終日の2/22に最終メンバーが確定。岸、和田、細川、松中、栗原が代表から外れた。和田を除く4人は調整不足が理由と報じられた。

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まだそんなこと言ってるんですか、中日の偉いさんたちは。

 下のエントリ<またですか。>の続き。
 本日発売の週刊文春、週刊新潮がそれぞれこの件を取り上げて、中日球団幹部の談話を載せている。

 週刊文春2008.12.4号は白井文吾オーナーに直撃取材して、見開き2ページのインタビュー記事。一部を紹介する。

<そもそもWBC(アジア予選)は読売がやってる。五輪やサッカーのW杯とは違う。アメリカの選手会が会社を作って、メジャーの野球機構も加わって、日本の読売新聞にも話が来て、『金儲けしよう』というのがWBCの発端。だから私は以前、お宅(小誌)に監督について聞かれたときも、主催者の読売グループの巨人から選べばいいって言ったんだ。
 それにみんな『出ると名誉』だと思ってる。そこが違う。名誉じゃない。よその国だって一流選手が出てくるとは限らないし、そんなのに勝ったってちっとも名誉じゃないよ。夢中なのは日本だけ。>(P.147)
 
 これに対する論評は前のエントリに書いているので割愛。ここまで注文通りの談話がオーナーの名の下に恥ずかしげもなく出てくるとは予想外だった。「匿名の声」とか書いてた私は甘かったと反省している。

 あと覚えている人も少ないと思うから念のため書いておくが(私も前のエントリ書いた時は忘れてました。すみません)、中日新聞社が主催して90年代に3回実施された日韓プロ野球スーパーゲームの日本選抜チームには、読売ジャイアンツの選手も参加していた。もし将来あれを再開するつもりがあるのなら(中日新聞の主催かどうかは知らないが2007年秋に日韓野球が行われる計画はあった)、白井オーナーは、他の11球団すべての幹部から「あれは中日さんの金儲けでしょ」と言われて選手の派遣を断られる覚悟をしておいた方がよいと思う。
 
 
 一方、週刊新潮2008.12.4号は、西川順之助球団社長のこんな談話を載せている。
 
<これからの時期、選手は来季に向けてのリハビリをしなければいけない。万が一、WBCで何かが起きても何も保証してもらえないし、球団としても、働いてもらわないと年俸も出せない事情もあるからね>(P.57)

 記事ではこの談話について<そうプレッシャーをかけられたら、選手は出場するとはいえないだろう。>と論評している。同感だ。オーナーも球団社長も監督もWBCに関してはやる気がないということはよくわかった。

 西川社長の考え方に対する批判は、前のエントリにもリンクした、3年前の第1回大会前のエントリ<王監督まで見殺しにするのか。>のコメント欄でさんざん書いたが、そこでは断片的な議論が長々と続くので、読んでくださいとも言いづらい。改めて私の考えを整理しておく。
 
 
 ……試合中のケガやシーズンへの悪影響が怖いからWBCを辞退する(あるいは球団が選手を出さない)というのは、リスク回避を最優先とした考え方だ。
 もしも日本のプロ野球が大繁栄していて、試合はいつも満員、テレビ視聴率は常に20%超え、選手にいくら年俸を払っても球団は儲かって仕方がない…という状況ならそれでいい。
 しかし現実は違う。経営に苦しむ球団が多く、球団数を削減しようかという暴挙が実行寸前までいくほどの危機的状況がほんの数年前にあり、今もV字回復を遂げたとは到底言えない。何かを変えることが必要だ。
 
 ほとんどのスポーツ競技において、日本で最も人気のある試合は国際大会である。その欠落は野球の弱みだった。とりわけサッカーが隆盛になってからは、その欠落感が観客に強く意識されるようになった)。
 WBCは、その欠落を補う絶好の機会である。変えるべき「何か」に相応しい。
 野球が五輪競技から失われた今、ファンの注目を集め“世界と戦う”というイメージを形成できる、ほぼ唯一の機会といえる。
 <よその国だって一流選手が出てくるとは限らない>などということは、現時点ではまったく問題ではない。この大会で勝ちさえすれば、日本は公然と「世界一」を名乗れる。そして大会がアメリカ本土で開催される以上、そこで負けることはMLBにとって大きなプレッシャーになるのだから、彼らもいずれは本気にならざるを得ない。白井オーナーがさかんに引き合いに出す(週刊新潮でも言っている)サッカーのワールドカップも、第1回大会の参加国はわずか13。権威などなかった。続けているうちに権威ある大会に育ったのだ。

 日本が本気で勝ちに行き、この大会を「本気で世界一を決める大会」に育てることは、日本国民の目を野球に向ける上で、大きな効果が期待できる。
 だからこそ、日本野球はWBCに全力を挙げて取り組むべきである。名誉がどうとかいう次元のことではない。国内リーグを盛り上げるためにこそ、WBCで名勝負をすることが必要なのだ。
 何もせず、今まで通り国内だけで勝った負けたとやっているだけでは、プロ野球そのものが衰退していくリスクを大きくしてしまう。リスク回避策のつもりでWBCに非協力的態度をとる球団は、中長期的にみれば、プロ野球全体のリスクを大きくする行動をとっているに等しい。……
 
 
 これを読んだ方の多くは「当たり前じゃん」と思うことだろう。
 3年前には、まだWBCという大会が行われておらず、海のものとも山のものともつかない状態だったから、このくらい言葉を尽くさなければ理解されなかった(いや、当時これが理解されたかどうかも判らないが)。
 だが、第1回大会を経験した今なら、こんなことは「当たり前」でしかない…と思っていたのだが、これも甘かったようだ。
 
 
 上の西川社長の談話で唯一意味を持つのは<WBCで何かが起きても何も保証してもらえない>というくだりだ。
 これは重要な問題だから、当事者の間で大いに議論されるべきだと思う。
 
 では、中日はこれまで、オーナー会議や実行委員会で、WBCで選手が故障した際の補償について問題提起し、納得がいくまで議論したのだろうか。前回大会が終わってからずいぶん時間はあったはずだが、報道からその形跡を見出すことはできない。
 まあ、西川社長が最近になって急にこのことに気付いて心配になったという可能性もなくはない。そんなにケガが心配なら、来年からはオールスターゲームにも選手を出すのをやめた方がいいんじゃないだろうか。

 同じことは選手会についても言える。
 第1回大会への参加を決める前には、開催時期と故障時の補償について不服を申し立て、日本の出場はなかなか確定しなかった。開催時期については選手会が譲った形になったが、補償問題がどう決着したのかは明確には伝えられていない。実際に大会中に故障した岩村や川崎にどういう補償がされたのか(あるいはされなかったのか)も気になる。

 だから、第2回大会についても、選手会はNPBに故障時の補償を要求すればよいと思うのだが、そういう交渉をしている形跡はない。選手会公式サイトのニュース欄を見ても、選手会が開催するイベントの告知ばかりが目立つ。ニュース欄で7/31に開催された臨時大会の様子が報告されているが、主な話題はいつもの通り、FAと保留期間の問題だったようだ。
 
 故障時の補償は、基本的には当事者間の問題だ。各球団や選手会が要求してNPBが拒絶したのなら問題視するけれど、当事者が要求している形跡がない段階で、見物人がどうこう言っても仕方ない。個人的には心配だし、NPBが保険をかけた方がいいと思うけれど(もしかけてるのなら結構なことだ)。

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またですか。

WBC代表候補、中日勢4人全員が辞退(読売新聞)

<国内組では、中日から選ばれた4人全員が辞退。WBCには12球団が一致して協力することを確認しているだけに、原監督は「事情はあるでしょうが、一人も協力者がなかったことは寂しいものがある」と残念そうに話した。
 中日の白井文吾オーナーは「北京五輪に全面協力したが、選手が体調を崩し、後遺症が大きかった。WBCにも協力すべきと思うが、うちはけが人が多い」と説明した。>


WBC 主力級含めた辞退、「最強軍団」構想に暗雲(毎日新聞)

<しかし、理由を明示せず、ただ辞退というのはいかがなものか。原監督によると、ある球団は候補者全員が辞退し、その球団の別の選手に要請したところ、また断ってきた。そこまでくると、チームとして何らかの力が働いているとみられても仕方あるまい。>

 中日は、第1回WBCに際しても、選手の派遣に関して非常に消極的だった。中日スポーツの記事は、<断腸の思いで“名誉欲”を断ち切ろうとしている>と出場辞退を賛美するかのようなトーンで伝えていた。
 
 
 第1回大会の前後、雑誌の記事などでは、「読売の商売に付き合う必要はない」というような匿名の他球団関係者の声がしばしば報じられていた。WBCアジアラウンドで読売新聞が、大相撲でいう勧進元のような立場で事業を仕切っていることについての見解だ。

 NPB全体で取り組むべき事業を一球団の親会社が単独で開催するのはおかしい、という考えがあるのなら、それは正論だと思う。
 だから、もしそういう不満を抱いている球団があるのなら、NPBの実行委員会で声を上げ、希望球団が持ち回りで勧進元を務めるようにするとか、NPB自身が勧進元として興行が打てるようにコミッショナー事務局の機能強化をはかるとかを訴えて、行動計画を提言すればよい。
 主張が容れられなければメディアやファンに問うてみるのもよい。そんな球団が現れたら、私は支持する。

 「日本代表の試合を東京だけで開催するのはおかしい。名古屋で開催すべきだ」(大阪でも福岡でも仙台でもよいが。いや3月の仙台では寒すぎるか)と主張する球団があってもいいと思う。東京以外で開催されれば私個人にとっては不便になるが、そのことに反対しようとは思わない。

 だが、現実にはそんな球団は現れない。
 現れるのは、故障を理由とした出場辞退者であり、「どうせ読売さんの商売でしょ」というような匿名の声(を報じる新聞・雑誌)だけだ。

 「寂しいものがある」という原監督のコメントに同意。
 
 
 
関連エントリ <まだそんなこと言ってるんですか、中日の偉いさんたちは。

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重厚なコーチ陣への若干の懸念。

 第2回WBC日本代表のコーチ陣が決まったのだという。
 報道されるところによれば顔触れは以下の通り。

投手:山田久志、与田剛
バッテリー:伊東勤
打撃:篠塚和典
内野守備走塁:高代延博
外野守備走塁:緒方耕一

 まずは文句のつけようのない顔触れではある。
 山田は95,96年にオリックスが連覇した際の投手コーチで、仰木彬監督の細切れ投手起用をよく支えた。売り出した頃のイチローと親しかったようだから、その面の保険、という意味もあるのかも知れない。
 伊東は西武黄金期の名捕手であり、監督としてリーグ優勝を果たしている。
 高代は中日・落合監督の下で今季まで野手総合チーフコーチを務めた作戦・走塁のエキスパート。
 篠塚、緒方の2人は原の指名ということだろうが、今季のジャイアンツの打撃・走塁を見れば、一定の成果は挙がっていると考えてよいのでは(甘いか?)。
 コーチ経験のない与田は、お手並み拝見というところ。MLB解説を長くやっていてアメリカ野球に詳しいという点は、チーム全体にとってのプラスになるだろう。
 全体としては、それぞれの分野で実績のある指導者を配した重厚な布陣になったと思う。

(前回大会を投手コーチとして経験し、原監督の下でコーチを務めて日本一を経験し、アメリカのマイナーリーグでのコーチ経験もある鹿取義隆が起用されないのは少し意外だったが、だからといって山田・与田コンビに不満はない)

 ただ、顔触れが立派すぎて、まとまるのだろうかという点は少し気になる。

 山田と高代は原監督より年長。伊東は4歳下だが選手としてはほぼ同世代といってよい。山田と伊東は監督経験者だ。高代については多くを知らないが、現役時代も中日のコーチ時代も、かなり主張の強い人物だったという印象がある(中日では、ほかのコーチとの不和が伝えられたこともあった)。

 主張が強いことがいけないとは言わない。チームが順調にいっている時はそれでいい。
 だが、前回大会の二次予選や、北京五輪の予選リーグ終盤のように、チームが苦境に陥ることも想定しなければならない。そういう状況下で、監督とコーチの間で、あるいはコーチ陣の間で意見が割れた時に、原監督は彼らを掌握してチームをひとつにまとめることができるだろうか。そこがこの人事の最大のポイントであるように思う。

 そもそも、原監督への就任要請があったのは10/27で、まだ1週間しか経っていない。
 日本シリーズを戦っている原監督自身が、この短期間にコーチ陣を編成できるはずはない。NPB側で誰かが動いた結果と考えるのが自然だ(原監督の意向も容れてのことだと信じたいが)。順当に考えれば、王顧問の考えが反映されているのではないかと思われる。
 ある意味ではお仕着せの人事であり、原監督とコーチ陣の間に現時点で十分な信頼関係があるかどうかはわからない(もちろん、本番までに形成されればそれでよい)。 「仲良しトリオ」と酷評された北京五輪の指導陣に対する反省に基づいた人事ならよいが、反動ということだといささか困る。


 ちなみに2006年の第1回大会の顔触れはこうだった。

監督:王貞治
ヘッド:弘田澄男
打撃:大島康徳
投手:鹿取義隆、武田一浩
守備走塁:辻発彦

 どう見ても王監督が突出して偉い(笑)。
 年齢でも王監督が圧倒的に上だし、比較的年長の弘田、大島は穏やかな人物という印象がある。鹿取にとっては王監督は現役時代の大恩人だ。王監督の人間力も含めて、何がどう転んでも内紛など起きようのない組織だったという気はする(もちろん、結果に影響されての感想ではあるが、当時、敗色濃厚だった時点でも不協和音が報じられることはなかった)。

 原監督が、年長者を含めたコーチ陣をよく掌握し、それぞれの力量を十全に発揮させることができれば、よい人事、よい組織だった、ということになる。私が懸念するような面については、もしそんな芽があった場合にも、後見人としての王前監督が抑えになってくれることを期待する。

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